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荻原浩「遠くから来た手紙」あらすじ・ネタバレ

   

簡単なあらすじ

1) 祥子は、娘・遥香を抱えて実家に戻る。仕事ばかりで、家庭をかえりみない夫・孝之に嫌気が差して、家を出たのだった。

2) 自室は既に弟夫婦に使われてしまっていたため、祥子は仕方なく祖母の部屋を使うことになった。そこで祥子は、「午後10時25分」に、見知らぬアドレスから奇妙なメールを受け取ることになる。ところどころ、「■■■■」となっており、文字化けのようになったそのメールは、古い文体で「其の后 元気に過ごして居る事と想います。私も元氣一パイ任務に精進しています」などと書かれた。

3) 祥子は、そのメールを何らかの作戦で孝之が送ってきたのだと思っていた。ところが、そんなメールを送った覚えはない、と孝之は否定する。何度目かのメールを受け取り、祥子は祖母の部屋にあった手紙の束を見つける。その手紙は、メールと同じ文体で、祖父が戦地から祖母に宛てて送ったものだった。祖父の手紙は検閲を受けており、墨で「■■■■」のように塗られていた。

4) 祖母の死亡時刻は、メール着信した時刻、「午後10時25分」だった。祥子は、祖父母が心配して自分にメールを送ってきているのではないかと考え、孝之のもとへ帰ろうと思う。

5) 祥子は、学生時代に孝之と文通していた手紙を一通だけ残して処分した。その一通には、「君が好きです。僕とつきあってください。」と書かれていた。その手紙をこの先、孝之とまた何かあったら見せてやろうと祥子は思っていた。

詳細なあらすじ

祥子は、娘・遥香を抱えて実家に戻る。仕事ばかりで、家庭をかえりみない夫・孝之に嫌気が差して、家を出たのだった。

「ごめん。今日も残業。夕飯いらない」というタイトルのメールに対し、祥子は「遥香を連れて実家に戻ります。しばらく帰りません。返信は不要です。TELも。」と返信するのだった。

だが、実家には弟・辰馬と身重の妻・麗亜がいた。自分の部屋は、彼らが使っており、しかたなく祥子は亡くなった祖母の部屋を使うことになった。父は「男が仕事に忙しくてなにが悪い。子育てはお前の仕事だ」と言い、祥子が帰ってくるのをよしとはしていなかったが、祥子はその話を聞き流す。

孝之からは、「いろいろ申し訳ないと思ってる。仕事が詰まっててすぐには行けないから、土曜日にそっちへ行く」と書かれていた。すぐに仕事場から駆けつけてくることを想像していた祥子は落胆し、返信もしなかった。

祥子と孝之は同じ中学に通い、中三の春、孝之が告白することで付き合うことになった。その後、遠距離恋愛で2人は別れることもあったが、お互いに30歳を迎えて同窓会をきっかけに再会し、結婚することになったのだった。

結婚後3年目、遥香が生まれて最初のうちは、孝之は仕事を早めに切り上げ、子煩悩だった。だが、次第に深夜近くまで帰らない日々が続くようになった。さらには、口うるさい義母が頻繁に訪ねてくるのもストレスになっていた。

そんな日々の中で、ついに祥子は実家に戻った。そんな中、見知らぬアドレスでメールが届く。「向暑の候」というタイトルで、「其の后 元気に過ごして居る事と想います。私も元氣一パイ任務に精進しています」などと書かれた、古い文体のメールだった。さらには、文字化けしてしまったのか、「■■■■」が並んでいるところもある。

祥子は、孝之が送信者が自分の名であると開いてもらえないと思い、会社からメールを送ったのだと考える。さらには、文体を変えて真剣みを増させようとしているのではないか、と考え、祥子は「小ざかしい作戦だ」と思う。祥子は、「つまんないよ。馬鹿。返信絶対不要。」と書いて返信する。

祥子は、自分の机に入れたままにしていた、孝之との文通の手紙が気になる。隠していた鍵で錠前付きの引き出しを開け、中にあった手紙の束を回収する。さらには、以前に使っていた古い携帯電話も辰馬から渡されるのだった。

携帯電話を充電すると、電源が入った。中には、孝之とやりとりしたメールが何通もあった。クリスマスプレゼントを渡したときのメール、プロポーズされた翌日のメールなど、祥子は読んで気恥ずかしくなる。

さらに、学生時代にやりとりした手紙を読むと、そこに「最近、本を読むようになった。・・・自分で書くのはムリっぽいけど、本を作る人間になれるかな、なんて思いはじめてる。将来は出版社に入りたい」と書かれていた。電機メーカーから、安易に出版社に転職をしたのと思いきや、15歳からのときの夢だったと祥子は知るのだった。

さらに、以前にも届いた、見知らぬアドレスからメールが届く。堅苦しい言葉・感じばかりの手紙のようなメールであり、「清涼の候」などというタイトルで、「元氣で日々暮らして居ることと遠察致します。・・・」などと書かれていた。だが、「御国の為に命を捧げる覚悟だ」などと書かれていることに、祥子は孝之がどうかしてしまったのではないか、と思う。祥子は、孝之の「ゲーム」に乗るつもりで、「元気で暮らしておりますよ。静岡の夜は早く朝も早いでござる」などと返信する。さらに、「命なんか捧げなくていいよ。命さえあれば、国なんかいらない」などと書いて送る。

実家の梨農園を手伝うハメになった祥子は、孝之に電話をし、「ねぇ、いつ来るの?」と訊いてしまう。祥子は「変なメールを毎晩送ってきて・・・あのセンス、どうかと思うよ」と言うが、孝之は「メール?送ってないよ、俺」と、メールを送っていることを否定する。

その晩、「梅鶯の候」というタイトルで、「今度の■■■■に於ける戦闘は玉砕か大勝利か二つに一つの作戦になること必至で、此れが最後の便りになるやもしれぬ」などと書かれていた。祥子は、祖母の部屋におかれた、葉書の束が入った箱を開ける。すると、そこには「軍事郵便」「検閲済み」という判子が押されていた。

その葉書は、祖父母が戦時中にやりとりしていたものだった。祖父が戦地から送った葉書には、毎晩のようにメールで送られてきたような文章が書かれていた。そしてそこで、「■■■■」というのは文字化けではなく、検閲で塗りつぶされた状態を表しているのだと祥子は考える。

祥子は、現代人の贅沢な悩みを叱る祖父か、心配した祖母のいずれかがこのように送ってきたメールではないかと思う。メールが毎晩着信してきた時刻は、「午後10時25分」であった。祖母の死亡診断書を見ると、そこには「午後10時25分」と書かれていた。

祥子は、タイトルに「椎名正男様 静子様」と書き、「ありがとう。私はもう平気」というメールを祖父母に向けて送る。祥子は翌朝、孝之のもとへと帰ることにした。朝になってスマホをチェックすると、「午後10時25分」に着信していたメールは全て消えていた。

祥子は、孝之と文通していた手紙を、一通を除いて捨てる。とっておいた手紙には、「君が好きです。僕とつきあってください。」と書かれていた。その手紙をこの先、孝之とまた何かあったら見せてやろうと祥子は思っていた。

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