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荻原浩「時のない時計」あらすじ・ネタバレ

   

簡単なあらすじ

1) 「私」は、亡くなった父親の腕時計を形見分けで譲り受ける。だが、その腕時計は止まってしまっており、修理のため、商店街の時計屋「鈴宝堂」を訪れる。

2) 父親は、大学の法学部を卒業し、一度の転職を経て自動車部品メーカーで経理の仕事をしていた、平凡なサラリーマンだった。そんな父には見栄っ張りな部分があり、高級時計やオーダーメイドのコートなどを購入していた。腕時計は私に、コートは弟に形見分けされることとなった。

3) 店主は、店に子供用の時計をあえて時間を止めて置いていた。一つの時計は、「子供が生まれた時刻」、もう一つの時計は「子供が亡くなった時刻」だった。難産で生まれた子供は、知的障害を持って生まれ、幼くして亡くなってしまった。そしてもう一つの時計には、「妻が家を出ていった時刻」で止めていた。

4) 「あなたにも、時計の針を巻き戻したいって思うことあるでしょ?」と問われ、定年まで三年となったにも関わらず、そりの合わない上司から突然、異動を通知されて辞表を叩きつけたことを思い出していた。だが、私は父譲りの見栄っ張りな部分もあり、「いえ、ありません」と答えるのだった。

詳細なあらすじ

「私」は、亡くなった父親の腕時計を形見分けで譲り受ける。だが、その腕時計は止まってしまっており、修理のため、商店街の時計屋「鈴宝堂」を訪れる。

父親は、大学の法学部を卒業し、一度の転職を経て自動車部品メーカーで経理の仕事をしていた、平凡なサラリーマンだった。そんな父には見栄っ張りな部分があり、高級時計やオーダーメイドのコートなどを購入していた。腕時計は私に、コートは弟に形見分けされることとなった。

私は時計屋の店主に、時計を見せて「悪いものではないと聞きました」と言うが、店主は「当時は高級っていえば高級だったんだろうけど、ミーハー時計だね」などと言われてしまう。

私は、「父の形見なんです」と言い、修理を依頼する。店主は時計を開け、修理を始める。「少し時間がかかるけど、いいですかね」という店主に、私はうなずく。平日ながら、私は失業中だったのだ。

私は、店内に箱型の置時計を見つける。白雪姫と小人が文字盤のところで踊っている。だが、その時計は動いてはおらず、「4時47分」で止まっていた。店主は、「これは娘が生まれたときの記念の品なんです。午前4時47分なんですよ。難産だから、明け方までかかってしまってね」と言う。娘が生まれた時刻を、時計で記録しているとのことだった。

他にも、美少女戦士が描かれた目覚まし時計があった。その時計は、「8時37分」で止められていた。孫の生まれた時刻か、と私は思うが、店主は「娘が亡くなった時刻です」と告げる。娘は難産のために知的障害があったという。そして、長生きをすることもできない、と医師に告げられたのだった。

「生まれた時間を記憶するなら、亡くなった時刻も覚えておかなくちゃね」と店主は言う。さらに、「出産が長引くと分かり、医者に言われたんです。『帝王切開にしましょうか?』と。でも、『腹を傷つけるなんてやめてくれ』と私は言ったんです。綺麗な女房を傷つけたくなかったんです」と言う。

そして、「6時17分」で止まっていたフリップ時計を見て、「女房はまだ生きています。たぶんね。フリップ時計に残してあるのは、ここを出て行った時刻です」と言う。

腕時計の修理が終わり、請求されたのは1万8千円だった。失業中の私には痛い出費だったが、「父の形見」と言った手前や、「舐められたくない」という思いから、その代金を払う。そのとき、父が時計を買ったのは転職したときのことであると思い出す。

「父は、新しい職場で舐められたくなかったのか」と思う。そして、弁護士を目指していた父が、戦後に全て法律が変わってしまい、平凡な会社の経理課長であり続けることにどんな思いをしていたのか、とも思うのだった。

父の生前のことに思いを馳せる私に、店主は「時計の針を巻き戻したいって思うことは、誰にでもあるでしょう」と言う。

私は、2ヶ月前に仕事を辞めた。三年後に定年を控えていたが、年下の局長と対立してしまい、畑違いの課へ突然異動させられてしまったからだった。「あと三年」と我慢することも考えたが、異動を通達された翌日、辞表をたたきつけたのだった。

そのことについて私は、「親父譲りの見栄っ張りなだけかもしれない」と思うのだった。そんな私は、「退職届を出さず、おとなしく庶務課に勤務している自分を夢想することもある」と、後悔を感じていた。

「あなたにも、時計の針を巻き戻したいって思うことあるでしょ?」と問われるも、私は「いえ、ありません」と答える。

修理の終わった時計を受け取ると、店主は「その時計は、偽物ですよ」と言う。だが、私は「父親には、おしゃれや高級品は似合わない」と思う。「そうですか」という私の返事が、なにやら嬉しそうだったことに、時計屋は驚くのだった。

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