荻原浩「成人式」あらすじ・ネタバレ

スポンサーリンク

簡単なあらすじ

1) 「私」は、15歳の娘・鈴音を亡くし、5年が経っていた。だが、妻・美絵子とともに娘の死から立ち直ることができず、鈴音を撮った過去の映像を観ては泣いていた。そんなある日、私はポストに成人式用の着物のカタログが入っているのを見つける。業者が鈴音は既に他界していることも知らず、送ってきていたのだった。私は、そのカタログを一枚ずつ破って丸め、ごみ箱へと入れるのだった。

2) 夫婦で幼い鈴音のVTRを観て、嗚咽しつつ泣いていると、私は「このままじゃ俺たち、だめだ」と言い、「いっそ成人式に出てみない?」と提案する。私は、冗談のつもりだったが、その言葉を真に受けた美絵子は、髪を染めたり、美肌パックをするなどの若作りを始め、準備に余念がない。

3) ついに当日を向かえ、私も晴れ着をレンタルして恵美子とともに成人式の会場へと向かう。美絵子は怖気づくが、私は会場の受付へと向かう。当然、止められるが、鈴音の中学時代の友人・郁美が話を聞いてくれ、他の友人たちとともに、半ば強引に受付を突破させてくれる。

4) 式が終わると、郁美は一緒に写真を撮ろう、と誘ってくれる。郁美は、かつて撮った写メを拡大し、鈴音の顔をA3の用紙にプリントアウトしてくれたのだった。鈴音の顔とともに、鈴音のかつての友人たちは一緒に写真を撮ろうとしてくれたのだった。私は、ロングショットでカメラを構え、一人一人を小さくして写真を撮ろうとする。そうすることで、そこには、15歳の鈴音、美絵子が扮したはたちの鈴音、鈴音の友達たちがいると感じるのだった。

詳細なあらすじ

「私」は、妻・美絵子に隠れて、娘・鈴音を撮った過去の映像を観ていた。そんな私に、リビングへとやってきた美絵子は、「まだ起きてるの?」と声をかける。「もう、ビデオを見るのはやめようって決めたよね?」と彼女は言いかけ、その声をさえぎるかのように、私は「わかってる。ごめん、つい」と謝る。

鈴音は、既に亡くなっていた。15歳のときに交通事故に遭ったのだった。鈴音の映像を観ては、思い出して泣いてしまうため、夫婦で「観ないようにする」と決めたのだった。だが、私は美絵子の目を盗むかのように、深夜、1人でこっそりと観ていた。

家を出ようとしていた鈴音に、私は「だいじょうぶか、遅刻するぞ」「急げ、あと12分だ」と声をかけてしまったのだ。焦っていた鈴音は、信号のない道路を渡ろうとして、トラックに轢かれてしまったのだった。

5年が過ぎた今でも、私は鈴音を忘れることができず、美絵子もまた、忘れることができず、三人分の食事を用意してしまうことがあった。

そんなある日、私はポストに成人式用の着物のカタログが入っているのを見つける。業者が鈴音は既に他界していることも知らず、送ってきていたのだった。私は、そのカタログを一枚ずつ破って丸め、ごみ箱へと入れるのだった。

テレビで振袖姿のCMが流れると、夫婦のどちらからでもなくテレビを消すようになっていた。次第に、テレビ自体を観なくなった。そんな中、私は鈴音の姿が映ったスキー旅行の映像を観て泣く。いつの間にかやってきた美絵子に、私は「このままじゃ俺たち、だめだ」と言い、「ねぇ、いっそ成人式に出てみない?」と提案するのだった。

「成人式を見に行くのではなく、鈴音の代わりに出席しよう」と提案したところ、美絵子は「馬鹿みたい」と言いつつも、翌日から髪を染めたり、パックを入念にしたりと、20歳に見える努力を始める。さらには、レンタル店の成人式の着物カタログが送られてくると、今度は捨てずに「鈴音が着ていく着物」を選ぶのだった。

さらに、私も男物の晴れ着を選び、「これを着ていく」と宣言する。「お前一人に恥はかかせられない」と、と言い、夫婦揃って成人式に出席すると宣言する。

今までのように、振袖のCMが流れても、もう消すことはなかった。逆に、美絵子は「髪型を参考にする」と言って積極的に観るのだった。私も、5 kg減量してウェストを5 cm細くすることを目指す。さらには、美容院で「思いっきり若作りにしてください。色は金色がいいかな」とオーダーするのだった。

1月11日を向かえ、夫婦は晴れ着を着て会場へと向かう。だが、その途中の電車内で、「本物」の若者たちを見て、自分たちがまがい物であることに気づかされ、美絵子は「やっぱり、やめよう」と言う。だが、私は「いや、予定通り、いざ決行だ」と言って連れて行く。

「いま、引き返したら、また嘆きと悔恨の日々が始まってしまう」と言い、それを終わらせるため、私たちは会場の入り口へと向かう。途中、「なんだよ、あれ。なんかのパフォーマンス?」などと、容赦のない囁きを耳にするが、気にせずに入り口へと向かう。

当然ながら、受付カウンターで「保護者の方はご入場できません」と言われる。「保護者じゃありません。本人です」と言い張るが、止められてしまう。私は、鈴音をエスコートする、若き茶髪の赤い羽織の馬鹿男になりきって引かずに交渉する。

そんな中、鈴音の中学時代の友人・郁美に再会する。「どうしたんですか?その格好」と言われ、私たちは理由を説明する。郁美は、「鈴音のこと、思い出せなくてごめんなさい。うちらに早く相談してくれればよかったのに」と言い、彼女の友人たちを呼んでくれる。その内の1人は、受付の男と知り合いで、「いいよな」と強引に私たち夫婦を通してくれるのだった。

場内でも、「オバちゃんだろ?どう見ても」などといった囁きはあったが、「なんか言ったか?」と、私は凄みを利かせてみせるのだった。式が終わり、郁美たちは一緒に写真を撮ろうと誘ってくれた。郁美は、鈴音の顔がプリントアウトされたA3の紙を持っていた。彼女は、写メの保存画像をコンビニで印刷してくれたのだった。

私は、カメラをロングショットモードに切り替える。そうすることで、みんなの顔が豆粒ほどになる。そうすることで、美絵子は本当に鈴音になったと感じるのだった。十五歳の鈴音、はたちの鈴音、そしてその友人たちに向け、私は「一たす一は?」と言う。

私は、父親からカメラを向けられ、「一たす一は?」と言ったら、鈴音がこう言うに決まっているせりふ「三」を、心の中でつぶやく。

タイトルとURLをコピーしました