横山秀夫「64 ロクヨン」あらすじ・ネタバレ

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2つの誘拐事件

昭和64年(1989年)、D県警で7歳の雨宮翔子が誘拐される。犯人は、2千万円を要求し、雨宮漬物を営む父・芳男は、身代金を用意した。犯人は、「龍の穴」と呼ばれる水中洞窟を利用し、まんまと身代金を奪って逃走。5日後、翔子は遺体となって発見された。

第一容疑者として疑われたのは、芳男の弟・賢二であった。彼は多額の借金をしており、遺産相続をめぐって芳男と揉めていたのだった。さらに、電話をとったのは事務員の吉田素子だった。素子は賢二と恋愛関係にあり、彼らは警察の厳しい追及を受けた。

また、捜査の中で警察の不手際があった。NTTの先端技術部門から転職してきた科捜研研究員・日吉浩一郎は、犯人からの電話を録音する役割を担っていた。だが、テープレコーダーが上手く作動せず、録音に失敗する。D県警捜査一課刑事・幸田一樹は、ミスを上司に報告すべきだと訴えたが、ロクヨンの自宅班キャップ・漆原は、そのミスを隠蔽するのだった。

幸田は、その事実を記して刑事部長の官舎に投げ込んだ。だが、それすらももみ消されてしまったのだった。その文書は「幸田メモ」と呼ばれるようになったが、そのメモ自体は闇に葬られた。

日吉は退職し、14年間引きこもっていた。一方、幸田もまた自責の念に耐えられず、退職する。再就職先はなかなか見つからず、妻子を養うため、刑事部長に降伏してようやく警備会社に就職できた。その後、誘拐事件の自宅班サブキャップであった柿沼が幸田の監視を続けていた。

その後、2002年を迎えても犯人は逮捕されなかった。世間は昭和から平成へと以降し、事件は風化しつつあったが、忘れまいとする警察は、この事件を「ロクヨン」と呼ぶようになっていた。

翔子の父・芳男は、捜査班が縮小されるも、自ら犯人を捜し続けていた。犯人からかけられた電話の声を頼りに、昭和63年当時の電話帳『D県中部・東部版』に掲載された一軒一軒に電話をかけたのだった。その世帯で、男性が電話に出て声が出るまで無言電話を続け、「ア行」から始まり、50音順にかけていった。

途方もない作業を続け、芳男はついに犯人の声を突き止める。その声の持ち主は、「目崎正人」という人物であり、スポーツ用品店を経営する男だった。

芳男は、捜査上でのミスを告白し、謝罪した幸田からの手紙を受け取っていた。そこで結びついた2人は、犯人を追い詰めるための計画を立てる。目崎の娘・香澄を「誘拐した」と言い、「ロクヨン」を模した誘拐事件を起こすのだった。

だが、実際に香澄を誘拐したわけではなかった。非行に走っていた香澄は、家に寄り付かなかった。幸田は、その香澄の携帯電話を盗み、その電話から「娘を誘拐した」と告げたのだった。「明日の昼まで」「現金二千万円」「金は古い札で」といったキーワードや、犯人が「サトウ」と名乗っていることなどについても、ロクヨンをトレースしていたかのようだった。

目崎は、過去に犯した自らの罪のこともあり、警察に通報するか迷った。だが、娘の命がかかっていることもあり、通報したのだった。

幸田は予定通り、目崎を指定場所を次々に変えて移動させて翻弄する。それは、ロクヨンの犯人が実際に行った方法・場所だった。その中で、幸田はわざと遠回りするルートを指示するのだった。指定時刻に間に合わないと焦った目崎は、「土地勘はない」と言いつつも、最短ルートを通って目的地へと向かったのだった。

さらに、最終地点に辿り着くと、そこで幸田は2千万円を取り出させ、ドラム缶で燃やさせる。現金を燃やした後、その缶の下を見るよう指示され、目崎はそこに一枚の紙を発見する。そこには、幸田と芳男からのメッセージが書かれていた。自分がロクヨンの犯人であると断定する内容が書かれており、目崎はその部分を破って飲み込むのだった。

幸田にも誤算はあった。香澄が万引きをして補導されてしまったのだった。香澄は、名前を明かさなかったが、警察に身柄が引き渡されたため、香澄が実は誘拐されていなかったということが判明するのは時間の問題であった。そのため、幸田は予定よりも早く動きだしたのだった。

捜査に当たっていた松岡勝俊 捜査一課長は、「無言電話」が頻発しているという事実や、「ロクヨン」を模倣するかのような誘拐事件、目崎が後ろめたい様子であったことから、この事件の真の狙いに
気づいていたのだった。そのため、香澄が補導されたという事実は伏せ、目崎を泳がし続けたのだった。

目崎が現金を燃やした後、松岡は目崎に同行を求め、聴取を開始する。幸田や芳男の行方は不明であったが、松岡は「目崎を逮捕したら出頭してくる」と考えていた。時効まで残り1年となったが、父親の執念が犯人を見つけ出したのだった。

2つの誘拐事件が結びつき、「ロクヨン」も解決しようとしていた。だが、それはつまり警察が隠蔽し続けたロクヨンの捜査ミスも露呈することも意味した。警察へのバッシングが予想され、三上義信は広報官として、松岡課長が臨むであろう業火の記者会見にお供をしたいと考えていたのだった。

刑事部 vs 警務部の対立

捜査二課次席であった三上義信警視は、警務部への異動を命じられ、広報官となる。望んだ仕事ではなく、「2年で刑事部に戻る」と三上は考えていた。広報官として、警察と記者たちとの「窓」としての役割を果たそうとしており、改革を進めようとしていた。だが、上司である赤間肇 警務部長は三上の改革に反対していた。

そんな中、三上の娘・あゆみが行方不明となる。あゆみは、高校を不登校となり、引きこもっていた。その原因は、父親似の顔を嫌い、「醜形恐怖症」となっていたためだった。「整形手術を受ける」と言い出したあゆみに三上は手を挙げ、決定的な親子の溝ができた。結果、あゆみは家を出て行方をくらませてしまった。

三上は、あゆみの捜索について赤間に相談。それから、赤間の命令には従わざるを得なくなる。その中で、妊婦が老人を轢いて死亡させた事件について、「妊婦の名前は匿名にせよ」と三上は迫られる。実は、その妊婦はD県警公安委員を務めるキングセメント会長の娘であったのだ。

記者クラブは、三上に「妊婦の名前を明かせ」と迫る。だが、三上も赤間の命令の手前、明かすことができずに記者の要求を突っぱねる。結果、本部長への抗議文提出という事態に陥ってしまいそうになる。三上は体を張って阻止するが、それが決定的となって広報と記者クラブの関係に亀裂が入る。

一方、三上は赤間から、「ロクヨン」で亡くなった翔子の父親の家に、警察庁長官が訪れる予定であると聞かされる。そのため、雨宮芳男に許可をとってくるよう指示される。さらには、長官の訪問後、囲み取材が行われる予定であるという。ところが、記者クラブとは断絶状態にあり、そのままでは囲み取材の申し入れは拒否されてしまう。三上は、記者への「匿名」撤回を赤間に求めるが、赤間は許可しない。

三上は、雨宮芳男の家を訪問し、長官訪問を申し入れるが、芳男は断る。警察と芳男の間に、なぜ隔たりができてしまったのか、「犯人逮捕ができていない」という理由だけではないと三上は考えていた。

そんな中、三上の同期・警務部調査官の二渡真治が刑事部の警察官たちに「幸田メモ」について聞きまわっているのを知る。三上は、「幸田」とは、ロクヨンの捜査に加わっていた幸田一樹のことではないか、と考える。

三上は、「幸田メモ」の正体を知るべく、調査を行う。その中で、幸田を監視し続けていたロクヨンの自宅班サブキャップであった柿沼から、幸田がなぜ警察を辞めたのかを聞き出す。

ロクヨン捜査の中で警察の不手際があった。NTTの先端技術部門から転職してきた科捜研研究員・日吉浩一郎は、犯人からの電話を録音する役割を担っていた。だが、テープレコーダーが上手く作動せず、録音に失敗する。D県警捜査一課刑事・幸田一樹は、ミスを上司に報告すべきだと訴えたが、ロクヨンの自宅班キャップ・漆原は、そのミスを隠蔽するのだった。

幸田は、その事実を記して刑事部長の官舎に投げ込んだ。だが、それすらももみ消されてしまったのだった。その文書は「幸田メモ」と呼ばれるようになったが、そのメモ自体は闇に葬られた。

「幸田メモ」は、刑事部にとって代々受け継がれた秘密であった。刑事部にとって暴かれたくない秘密を、警務部の二渡が調べていたのだった。

さらに、三上は長官の雨宮家慰問をきっかけに、長官が囲み取材の場で「事件解決のため、D県警の刑事部長を、地元生え抜きの人物ではなく、警察庁人事にする」と宣言する予定であることが判明する。

三上は、雨宮家への慰問を実現させないよう、サボタージュしようとも考えるが、赤間からのプレッシャーもあり、結局は雨宮芳男に、慰問の許可を得るのだった(注釈:三上の家に雨宮は無言電話をかけていた。そこで、三上が必至に娘の名前を呼んでおり、娘に何かあったのだと気づく。そして、再度の訪問時、三上が妻の仏壇の前で泣いたため、同情した三上は慰問を許可したと思われる)。

県警の警察官にとって、生え抜きの警察官が刑事部長になることは重要なことであった。赤間を中心とする警務部は、そのポストを召し上げようとしていたのだった。そんな警務部の動きに対抗すべく、刑事部がリークしたと考えられる、「警務部の不祥事」が暴露される。

窃盗容疑で留置中の女性が、管理係によって猥褻な行為をされたのだという。警務部の管理体制が問題視され、赤間も記者会見の場で謝罪を要求される。

刑事として刑事部につくべきか、それとも現在の職務として警務部につくべきか、三上は板ばさみとなるのだった。だが、三上は「匿名」を原則禁止として記者クラブに情報を流すことを条件に、記者のボイコットを防ぎ、長官へのぶら下がり会見を実現させるのだった。

刑事部の次なる対抗策が打たれるのでは、と三上が考える中、刑事たちが一斉に職場からいなくなる。三上は、サボタージュを行い、「県の警備体制」を盾に長官の訪問を阻止しようとしているのでは、と思う。

だが、刑事部の狙いは異なり、「誘拐事件が起こったため、捜査を行っていた」のだという。だからといって警務部を締め出して捜査を行う理由はない、と三上は疑っていたが、刑事部は実際に誘拐事件捜査を行っていた。

被害者やその家族が匿名でしか情報を教えられず、「本当に誘拐事件は起こっているのか?」と三上はさらに疑うが、松岡勝俊捜査一課長は食い下がる三上に、「目崎正人」と被害者の父親の名前を明かすのだった。

三上は、目崎正人のクルマを追跡する、松岡課長たちのクルマに同乗する。そこで、犯人たちの狙いは身代金ではなく、目崎をロクヨン事件の犯人と告発することにあるのだと気づくのだった(誘拐事件の顛末については、上記参照)。

三上は、「誘拐事件」の捜査が終了した後、二渡を呼び出す。三上は、二渡が長官の慰問を阻止し、地元生え抜きの警察官のためのポストとして、刑事部長職を残そうとしていたのだった。

二渡はまず、「幸田メモ」という言葉を用い、警務部の警察官として刑事たちに恐怖を撒き散らした。それに対抗すべく、刑事部は警務部の不祥事を暴露したのだった。さらに刑事部は、長官慰問を阻止すべく、なんらかの動きを見せるつもりであったが、そこで誘拐事件が起きたのだった。

二渡は、「警務の皮をかぶった刑事」である三上を利用した。三上に、長官慰問の真の狙いをつかませた上で、執拗に挑発したのだった。だが、三上は記者に正面からぶつかり、ボイコットを阻止した。それこそ、二渡の誤算だったのだ。

三上は、二渡に「赤間がなんと言おうとも、俺を広報官から外すな」と言うのだった。「幸田メモ」で指摘されていたことが明るみになり、警察へのバッシングが予想された。だが、広報官の職務を全うし、そのバッシングの中で戦い続けることを三上は決意したのだった。

あゆみの行方

三上の娘・あゆみは、行方不明になる。物語の結末でも、あゆみは発見されない。妻・美那子は、芳男が犯人を見つけるためにかけた無言電話を、「あゆみが電話をかけてきた」と信じていた。だが、目崎がロクヨンの犯人であると判明し、三上は美那子に無言電話の真相を話すのだった。

美那子は、「あゆみを受け入れてくれる、自分たち以外の人物」にあゆみが保護されていると信じるようになる。三上は、あゆみに会いたいと願いながらも、あゆみが幸せに暮らしていると美那子とともに信じるようになるのだった。

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