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法月綸太郎「生首に聞いてみろ」あらすじ・ネタバレ

   

簡単なあらすじ

1) 前衛彫刻家・川島伊作が亡くなり、遺作となった石膏像の首が切断されて盗み出されるという事件が発生する。その石膏像は、川島江知佳の体を直接型取りしたものであった。推理小説家・法月綸太郎は、伊作の弟に依頼され、警察には届け出しない上での調査を依頼される。

2) 首を切断したのは、江知佳だった。その石膏像の首は、生身の人間から型取りしたのではありえない特徴があった。その像は、目を開いていたのだった。そのようなことが可能になるのは、死んだ人間で型をとることだけだった。そこで、江知佳は過去に起きた事件の真相に気づくのだった。

3) 江知佳の母・律子は、義理の弟・各務順一と再婚したことになっていた。16年前、順一の妻で律子の妹は、伊作との不倫の末、伊作の子を妊娠して悩み、自殺したことになっていた。だが、実際に亡くなっていたのは律子であった。順一は結子と共謀し、結子が自殺したと見せかけて生命保険を手にしたのだった。

4) 伊作は、順一に「律子さんが不倫している」と吹き込み、仲間に引き込んだ。伊作は黙認することを条件に、律子の遺体で石膏の型取りを行うことができたのだった。ところが、後に律子は不倫していたわけではなく、順一が乱暴していただけと判明する。自分が騙されていたと気づいた伊作は、目を見開いた像を制作し、各務たちの過去の罪を暴こうとしたのだった。

5) だが、伊作が指弾されることを恐れた江知佳は、石膏像の首を切断してしまう。そして、自ら過去に起きた結子の自殺を調査し、実際に亡くなったのが律子であると気づくのだった。その事実を各務に突きつけたところ、殺害されてしまう。

6) 各務夫妻は、16年前の事件に再び注目されてしまうことを恐れ、石膏像の首の切断を、被害者に対する殺人予告のように見せかけ、江知佳の首を切断して評論家・宇佐見彰甚に送りつけたのだった。

起:伊作の死と遺作

推理小説家・法月綸太郎は、写真家・田代周平の写真展に呼ばれて訪れる。知人・滝田容子の写真を見ていると、そこで全ての写真で人物が目をつぶっており、裏焼きになっていたことに綸太郎は気づく。そのことに気づいた際、田代のファンであるという駒志野美大 立体造形科の学生・川島江知佳に出会う。そして、彼女は知り合いの翻訳家・川島敦志の姪であると知り、驚く。

綸太郎は、敦志が前衛彫刻家で兄の伊作と仲違いしていたことを聞かされる。だが、立腹していたのは伊作の単なる勘違いであり、自分が胃癌の手術を受ける直前、仲直りすることができたのだった。また、江知佳も父親・伊作の再婚話が持ち上がった際、荒れて登校拒否になったりしたことも明かされるのだった。

江知佳は、伊作がアトリエで倒れたと、彼の秘書・国友レイカから連絡を受ける。病院に搬送されたが、伊作はそのまま亡くなってしまう。彼が亡くなると、新聞紙面上に評論家・宇佐見彰甚が書いた追悼記事が掲載された。

綸太郎は、敦志から相談を受ける。伊作は、アトリエで倒れる直前まで江知佳の石膏直取り彫刻を作っていた。救急車で病院へ運ばれた後、留守になったアトリエに何者かが忍び込んだ形跡があり、完成した石膏像の首を切断して、頭部を持ち去ったのだという。

綸太郎は伊作の告別式に出席する。そこで、伊作が妻の妹に手を出し、妻と離婚したのだとの噂を聞く。また、各務順一という母の再婚した男が参列し、そこで江知佳は「律子さん(母)に、どうしても確かめたいことがあるから」と会うよう連絡をとりつけて欲しい、と願い出るのだった。

敦志は、田代にカメラマン堂本峻の消息について訊ねる。だが、田代は知らないと答える。後に、綸太郎は江知佳に堂本について訊ねる。すると、江知佳はモデルをやったことがあったのだが、病的にシャッターを切り続ける堂本のことが怖くなり、モデルを断るようになる。すると、堂本は跡をつけたり隠し撮りするなど、ストーカー行為を繰り返すようになったのだという。

綸太郎は、レイカに彫像の首が持ち去られた犯行時刻やアリバイを聞き出す。木曜日の16時に伊作は倒れ、運ばれることとなった。江知佳と敦志は、伊作が亡くなるまでそばを離れなかった。また、彫像にはカバーがかけられ、その中がどうなっているかは不明であったのだという。金曜日の早朝に伊作は亡くなり、昼前に自宅へ遺体とともに戻った。通夜が終わり、夜更けに江知佳がアトリエに向かうと、石膏像は無事だったのだという。そして、首を切られる以前の石膏像を見たのは、江知佳ひとりしかいなかった。

その後、土曜日に密葬が行われ、帰宅したのが午後4時過ぎだった。アトリエの入り口の鍵はかかっていたが、中に入ると窓が壊されており、石膏像の首が切られていたのだという。

綸太郎は、宇佐見彰甚に許可を取り、アトリエの中に入る。像を見ると、首の部分は糸鋸で切断されていたらしかった。宇佐見は、その像のポーズについて、「伊作の『母子像』の連作を引き継ぐ作品」であると説明する。母子像 I、II はともに丸椅子に横坐りの格好で腰かけた石膏の裸婦像であり、江知佳の像も同様であった。だが、母子像 Iとは反転コピーとなる体勢になっていた。

承:16年前の事件

綸太郎は、敦志に伊作が妻・律子の妹・結子と不倫をしていたことについて訊ねる。すると、結子は自殺しており、さらに結子の元夫は、各務順一であると告げる。律子は、伊作と別れた後、亡くなった妹の夫と再婚したのだった。そして、最初に不倫の関係を持ったのは、結子と伊作ではなく、律子と各務順一の2人だったのではないか、という可能性を指摘する。

そして、結子が亡くなって最も得をしたのは各務であったのだという。各務の歯科医院は経営が立ち行かなくなっており、借金がかさんでいた。その借金は、結子が亡くなった生命保険で返済されたのだという。そして、各務は結子にプレッシャーをかけて自殺させ、その企てに律子が関わっているのではないか、と考えていると敦志は語る。

綸太郎は傘を間違えて持ち帰り、後日、傘を返すのを口実に川島邸を訪れ、江知佳に話を聞く。以前は父・伊作の写真を撮っていたのだが、この1ヵ月半は「このまま亡くなる人の写真を撮っているような気分」となり、撮らないようになったことを明かす。そして、伊作が倒れてから宇佐見がアトリエの鍵を管理していたことについて確認を行う。

また、その場でレイカが伊作の「携帯電話がなくなっている」ことを明かす。綸太郎たちは、再び、アトリエに入って携帯電話を探しにいく。だが、携帯電話は見当たらず、「宇佐見が持ち出したのでは」とレイカは考える。

綸太郎は、伊作が倒れたときの再現をレイカたちに行ってもらう。そこでレイカと家政婦・秋山房枝は、木曜日の時点と比べ、「カバーのてっぺんの部分の高さが異なり、こんなに平らではなかった。頭一つ分、高さが足りない」と指摘する。そのやり取りが終わった後、綸太郎はタウンページで産婦人科・産院を調べる。

帰宅した綸太郎に、田代は堂本の居場所を伝える。堂本は、タレントの密会写真をネタに、芸能事務所を強請ったのだという。結果、狙われて山之内さやかの部屋に匿ってもらっているのだった。綸太郎と田代は、堂本に会いにさやかの部屋へと向かう約束をする。その後、宇佐見から電話がかかってきて、「石膏像の首の件で、話したいことがある」と相談を受ける。

翌日、綸太郎と田代は、さやかの家に行く。「小説の取材のために、堂本さんにインタビューの申し込みにきた」との口実で、綸太郎は堂本と会おうとする。だが、堂本は水曜日に台湾・台北へ逃亡しているのだという。そうなると、月曜日に町田駅の前で目撃されているのはありえないということになる。

その後、綸太郎は、さやかの家に堂本がいるとの情報を伝えた、フリージャーナリスト・飯田才蔵に会いに行く。飯田は、堂本が以前かかわりのあった雑誌の編集者を頼って台北に向かった可能性がある、と明かす。

転:江知佳の死

綸太郎は、宇佐見に会いに行く。そこで綸太郎は、「アトリエで。石膏の粉をほうきで掃いた筋目が床の上に残っているのを目にしたんです。入口のドアの手前まで。石膏像の首を切って持ち出した賊が自分の足跡を消すためにそうしたのだとすると、辻褄の合わないことがある。窓から入って窓から出たなら、賊は入口の方へ近づく必要はありません。ドアのそばに足跡を残すこともなかったはずです」と指摘する。

さらに、「犯人は、最初からラックに置いてある糸鋸で切断作業を行うつもりだった。要するに、あらかじめ糸鋸の存在を知っていた。アトリエの内部に詳しい人間の犯行と考えられます」と言う。また、「人物はアトリエの鍵を使ってドアから中に入り、切断作業をすませた後、堂々とドアから出ていった。窓ガラスに穴を開けたのは、賊が外部の人間であるように偽装するための小細工だった」と語る。

綸太郎は、「内部の犯行だとすれば、切断が行われたのが密葬の最中である必要はありません。石膏像の首はそれより以前、金曜日の夜のうちに切り離され、アトリエから運び出されていた。石膏像の首を切り、外部の犯行のように見せかける工作をしたうえで、切断した首を運び出すことができたのは、江知佳さんしかいない」と推理を聞かせるのだった。

宇佐見は、アトリエからガラス切りを持ち出したのは自分であると明かす。「ラックの工具箱の底に隠してあるのを見つけて、それでピンと来た」と、江知佳の犯行であると気づいていたと告げるのだった。江知佳をかばうため、窓サッシの外枠を布で拭いたのも、宇佐見だった。

ところが、宇佐見は「川島先生の遺作には、最初から首がなかったんだよ」と、江知佳が首を切って頭部を持ち去ったという綸太郎の推理を否定するのだった。だが、綸太郎はレイカと家政婦・秋山房枝の証言で、「頭一分、カバーの高さが足りない」と証言していたことから、「二人の証言がある以上、伊作さんがあの像を完成させた時点で、最初から頭部が欠けていたとは考えられません」と宇佐見の説に反論する。

宇佐見は、「川島先生は、ドライアイスで作った首のダミーを作り、像の上に置いておいた」と言うのだった。そして、その証拠として「江知佳の顔から取った雌型」があることを明かす。雌型は、石膏を流し込んだ後、鑿(のみ)などでバラバラにされてしまうが、そのまま残っているのだという。すなわち、顔の雌型が使用されていない以上、頭部は最初からなかったのだ、と宇佐見は主張するのだった。

また、宇佐見は江知佳が「完成した石膏像には、もう少し上まで首があった。成形して仕上げた首をそのまま放置すれば、もともと頭部が欠けていることが一目瞭然になってしまう。だから、てっぺんを薄く切り取って、切断行為があったように見せかけた」と言うのだった。

伊作がなぜ首のない像を作ったかについては、彼が「どんなポーズを工夫しても、必ず目をつぶっている彫刻のたたずまいに飽き足らなくなっていた」ことから、「『目』の表現がはらむ二重のパラドックスを解消する、理論的な別解を用意していたと解釈しなければならない」と宇佐見は説明する。すなわち、閉ざされた目の表現を回避するため、首をなくしたのではないか、と語るのだった。さらに、「見開かれた目、鏡と切断された首…」から、宇佐見は「メドゥーサの首」をモチーフにしているのではないか、と指摘する。

綸太郎は、かがみ歯科クリニックを訪れ、各務順一に患者を装って会いに行く。そこで、元妻の結子、再婚相手である律子、伊作との関係性について話をする。各務は、「女房の妹を犯して自殺させたくせに、あいつは何の咎めも受けずに、平気な顔で世渡りをしてきた」と激昂するのだった。さらに、律子についても「当時のショックから立ち直れないでいる。対人恐怖症とパニック障害で、人前に出ることさえままならないんだ」と明かす。

綸太郎は、堂本のマンションを訪れる。そこで隣人に江知佳の写真を見せるが、彼女を見かけた覚えはないという。その後、敦志に宇佐見が「雌型から江知佳さんの顔の雄型を抜き、首のない石膏像と継ぎ合わせた完成品を、十一月の回顧展で公開するつもりでいるらしい」と話す。そして、宇佐見が綸太郎にそのことを打ち明けたのも、「遺族への根回し」である狙いがあるのではないか、と伝える。そんな中、江知佳がいなくなったと家政婦から連絡を受ける。

宇佐見は、伊作の追悼展を開くため、企画案を練っていた。そこで「あの人は最初からそのつもりで、制作日数を計算していたにちがいない。石膏直取りの新作を仕上げると同時に、おのれの寿命も尽きるように。そして、自分の命と引き換えに、あんな厄介な置き土産を遺していったのだ」と思う。

そして、金曜の夜、宇佐見は「写真の品の保管料として、貴殿に五百万円を請求する」と写真に裏書された脅迫状を受け取っていた。その写真を見て、宇佐見は「こんなものが公になったら、川島伊作の死後の名声はおろか、彼に肩入れしたというだけで、自分の現在の地位さえ、無傷ではすまされないだろう」と思ったのだった。

宇佐美が、川島伊作展の舞台となる名古屋市立美術館を訪れ、そこで荷物を受け取る。ダンボールの箱であり、その中には、若い女の生首が入れられていた。

綸太郎は、江知佳を探しに、彼女が通う美大に向かう。だが、そこに彼女はいなかった。その帰り、綸太郎はレイカに「江知佳さんに妊娠の徴候はありませんでしたか?」と訊ねるが、否定される。さらにそこから「伊作さんの作品が『母子像』の完結編だったということも・・・」と言うと、レイカは伊作・江知佳親子での間で妊娠している可能性はない、と断言する。伊作は、がん治療により生殖機能を失っていたのだった。

綸太郎は、敦志からの電話で、江知佳と見られる頭部が美術館に送りつけられ、見つかったことを知らされる。死亡推定日時は、18日土曜日の日中から夜半にかけてであり、後頭部に打撲痕があり、死因は首を絞められたことによる絞殺であった。首を宅配便で送った犯人は、中年男性であるが、あまり特徴はなかったという。

送り状には、堂本峻の名前が書かれていた。ところが、その住所が間違っており、以前使用していたスタジオの住所が書かれていた。さらに、「峻」の字が間違っていた。何者かが堂本の名を騙って荷物を預けたと考えられた。

首に付着した指紋の照合結果から、カメラマン権堂元春の名前が浮上する。それは、堂本の本名であった。父・法月警視は、堂本の逮捕状を請求する。そこで、堂本の写真を見て、綸太郎は「最近、どこかで会った気がする」と思う。そして、堂本のマンションで「隣人」と言っていた、女装していた男こそが堂本であると気づくのだった。

綸太郎は、「堂本に会ったのは、土曜日の午後。あの時、堂本はトートバックを持っていた。あの中に、まだ切断されて間もない江知佳の生首が隠されていたのだとすれば・・・」と思い、自分が大失敗を犯した可能性がある、と考えていた。

綸太郎は、敦志に謝罪し、堂本が台湾に向かったというのもウソであったと報告する。堂本の部屋で、江知佳の遺体は発見されなかった。さらに、宅配便を送りに行った人物の似顔絵は、堂本と似ても似つかなかった。

敦志は、「堂本は、君を西池袋におびき寄せ、女装した格好とこれ見よがしにふくらませたバッグを印象づけた。バッグの中に首が入っていたと思い込ませるためだ。だが、犯行現場はそのマンションとはまったく別の場所で、バッグの中身も首ではなかった。殺害と遺体の切断作業は、堂本を見送った午後一時半より、後に行われたのではないだろうか。犯行時刻を実際より前にずらして、偽のアリバイを作るためだろう。堂本は、土曜日の午前中のアリバイを用意してるんじゃないか」と指摘する。実際、午後一時に、玉川学園前で江知佳の生存が確認されている。

綸太郎は、田代に堂本のマンションに行くことをあらかじめ伝えていたことを思い出す。彼らが裏で通じていれば、そのアリバイ作りは不可能ではない。

そんな中、法月警視がやってきて、ともにアトリエを訪れる。すると、そこには首のない江知佳の像がなく、キャンバス地のカバーごと持ち去られ、分解された雌型の残骸もなかった。調査の結果、宇佐見の使いを名乗る業者が運び出していた。

結:真相

堂本は、さやかのマンションにいたところを目撃されるも、刑事の追跡を振り切って逃げ出す。綸太郎は、刑事たちとともにさやかのもとを訪れる。そこでさやかは、堂本が「俺は川島江知佳に関して、すごい秘密をつかんでる。それがこっちの最後の切り札だ。・・・あの子の母親は、本当の母親じゃない。父親は川島伊作だが、江知佳を産んだのは自殺した妹の方だ」と明かす。

だが、その後に綸太郎が敦志に会って堂本の話の真偽を問うと、敦志は「そんなことはありえない。私は律子さんが妊婦だったのを見ている」と否定する。綸太郎は、江知佳が生まれた助産院を探す。だが、その助産院は既に廃業していた。

堂本の通信記録から、堂本と江知佳がひそかに連絡を取り合っていることが判明する。その後、綸太郎は法月警視とともに各務の自宅へと向かう。家を訪れると、そこには純一の母・タエ子がいた。タエ子は、「律子は、信州の保養施設へ静養にいかせました」と明かす。

法月警視は、堂本の話していたという、「江知佳さんは律子さんの実子ではなく、自殺した妹の結子さんと川島伊作氏との間にできた娘だというんです」ということについてタエ子に問う。彼女は、「あの子は正真正銘、律子さんがお腹を痛めて産んだ娘ですよ」と否定する。だが、「結子さんは、自殺していたときに川島伊作の子を宿していた」と明かす。さらに、「妊娠してしまったため、どうしたらいいか分からなくなってしまい、自殺したのではないか」とタエ子は語る。

だが、怒りに我を失った彼女は、「悪いのは全部、あいつなのよ!わたしの夫だった男が、妹を無理やりはらませて殺したのよ」と言い、自らがタエ子などではなく、律子本人であることを明かしてしまう。律子は、メイクやカツラで義母を装っていたのだった。

順一が帰宅し、律子の精神状態が娘の死をきっかけに悪化したことを明かされる。そして、前妻・結子が子供を欲しがっていたが叶わず、さらには姉・律子に対抗心を燃やすかのように浪費癖があったこと、そして歯科医院の経営が上手くいかず、借金を重ねてしまったことを順一は明かす。

そんな中、結子は金策するため、伊作に相談しにいった。そのことをきっかけに、弱みに漬け込んだ伊作は関係を迫ったのだという。綸太郎は、伊作と結子が不倫関係になる前、順一と律子が不倫関係にあったのではないか、と問うが、順一は否定する。

律子は、妹の死後、傷心状態で渡米し、そこで薬物中毒になっていた。順一もまた、審美歯科を学ぶためアメリカにわたっていた。そこで順一は律子と再会したのだった。順一は、律子を一人残して帰国するわけにはいかず、「一緒に日本へ帰ってやり直そう」とプロポーズしたのだった。

田代が、「飯田才蔵が耳寄りな情報を仕入れた」と綸太郎に連絡する。会いに行った綸太郎は、首を送った人物の似顔絵を見せ、田代は「鼻の形に見覚えがある」と言うのだった。さらに、飯田は「宇佐見と今日の午後、都内で会った」と明かす。

宇佐見は、飯田に「堂本が盗撮フィルムで、芸能事務所を強請った件について訊きたい。具体的には、どこのどういう組織に追われてるのか」と言ったのだという。そんな中、法月警視から宇佐見が堂本と会うために姿を現し、身柄を確保されたと連絡が入る。堂本は組員風の男に捕まえられそうになり、姿を消してしまったという。宇佐見は、500万円を携えていたのだという。

綸太郎は、事情聴取を受ける宇佐見に会いに行く。そこで宇佐見は、脅迫文の裏書された写真を見せる。そこには、江知佳に生き写しの頭部がかたどられた塑像が写っていた。宇佐見は、「像に最初から首がない」と信じていたが、その自説を撤回する。そして、江知佳が首を切断したという綸太郎の推理を認め、「オリジナルの雌型から雄型を抜き、その雄型をモデルの頭部に代用するだけで、新しい雌型のコピーをいくらでも作ることができる」と指摘する。

宇佐見が500万円を用意して、堂本に渡そうとしていた理由は、「それで川島先生の遺作を完全な形に復元できるなら、安いもの」と考えたからであるという。その後、宇佐見は飯田と会い、堂本を追う組の名前を訊いたことを指摘され、狼狽する。宇佐見は、その組に密告し、堂本を捕らえさせ、自らの手を汚さずに堂本の口を塞ごうとしたのだった。

堂本は、石膏像を持参していなかった。そのことから綸太郎は、「現金の支払いは、恐喝者に対する口止め料だった」と指摘する。石膏像の写った写真はピンボケしており、プロのカメラマンが撮ったものとは思えなかった。宇佐見は、雌型を利用して顔の石膏像を作り、自ら写真を撮ったのだった。

宇佐見は、堂本が送りつけた写真について、「本物の写真には、あってはならないものが写っていた」と言う。「写真に写った石膏像の顔は、まぶたを閉じていなかった」のだった。それは、生きている人間から型を取って作るのでは、ありえない像であった。

結子の自殺した事件での調書に、妊娠検査を受けた松坂産婦人科医院の記述があった。折り目のついたタウンページにも、そのクリニックの名前があり、綸太郎は松坂利光院長に会いに行く。そこで、入り婿であるという現在の院長に「先週の金曜日、江知佳さんに似た若い女性がやってきたという噂がある」ことを知らされる。対応した事務員に聞くと、彼女は「各務悦子」と名乗ったのだという。その女性は先代の院長に会いに行くため、現在の住所を聞いたという。その後、彼女は先代院長に会いに行った。彼は、江知佳が会いにきたことを認める。

結子は、妊娠が判明すると中絶を希望した。配偶者の同意が必要だと言われるが、「婚外子なので夫には話せない」と言ったという。その後、結子は自殺した。その後、確認のため、松坂利光は遺体と対面し、遺体は結子であると断言したのだという。結子は初産であり、妊娠3ヶ月であった。

利光はさらに、結子が「義理の弟に手込めにされた」と話していたと明かす。だが、遺書には、彼女の姉の夫だった彫刻家の川島伊作氏との不倫が告白されており、当時、刑事にも「聞き間違いではなかったのか」と言われたのだという。だが、「義理の弟で間違いない」と利光は言う。

綸太郎は、田代と飯田に事件の真相を聞かせる。堂本が脅迫文とともに送った写真には、目を見開いた江知佳の像が写っていた。だが、生身の人間のむき出しの眼球を石膏で型取りするならば、モデルは失明を免れない。そこで、綸太郎は伊作が「デスマスクをもとに型取りしたのではないか」と考えたのだった。

顔は、江知佳のものではなかった。江知佳の体の像に、彼女の母親の頭部を型どりした石膏像をつなぎ合わせた作品を伊作は作ったのだった。つまり、顔は母親、体は娘という像をもって、伊作は「母子像」の連作として発表しようとしていた。

16年前、亡くなったのは結子ではなく、江知佳の母・律子だったのだ。自殺ではなく、保険金目当ての計画殺人であり、律子は各務順一・結子夫婦の手によって殺害されたのであった。伊作が余命わずかで「母子像」の新作を作り上げたのは、告発の意味を込めてのことだった。だが、伊作もまたその殺人に加担していた。伊作は、犯行に加担することで、目の開いた妻のデスマスクを取るチャンスを得たのだった。そして、各務順一・結子夫婦が渡米したのも、知人の目を避けるためであった。

帰国してからも、結子はわざと太ったり、「対人恐怖」と偽って義母を装っていたのも、姉妹での入れ替わりを指摘されないようにしていたためだった。江知佳と会わないようにしていたのも、母親でないと見破られないためだった。

石膏像の首を切断したのは、江知佳だった。江知佳は、目を見開いた像を見て、父・伊作のメッセージに気づいたのだった。江知佳は、世間によって伊作が過去の罪により批判されると考え、首を切断した。

江知佳は、アトリエへの侵入と石膏像の損壊について警察が調べにくる可能性があったため、切断した首を堂本に預けた。いざという時、石膏像の切断を堂本の犯行に見せかけることもできると考えたためだった。

堂本は、石膏像を見て結子が江知佳の母親であると誤解した。そして、そのネタをもとに口止め料を要求するため、写真を撮ったのだった。一方、江知佳は各務夫妻の犯行を裏付けるため、引退した産婦人科医院の元院長宅を訪ねたのだった。そして、江知佳は母・律子が産婦人科を受診したことを突き止めたのだった。

江知佳は、母を殺害したのが各務夫妻だと確信し、その事実を各務順一に突きつけた。各務は動揺し、江知佳を殺害。16年前の事件に再び注目が集まることを恐れた各務は、江知佳の首を切断し、石膏像の首の切断を、被害者に対する殺人予告のように見せかけようとしたのだった。

各務が首の送り状に「堂本俊(実際は堂本峻)」と書いたのは、綸太郎が「江知佳さんをストーキングしているドウモトシュンという男がおり、その男のことを知らないか?」と訊ねたためだった。各務は、その情報をもとに、罪を堂本に着せようとしていたのだった。だが、ネット上の誤記をそのまま書いてしまっていたり、昔のスタジオの住所が掲載されたサイトを参考に、その住所を記してしまった。

首を収めた箱は、もともとは堂本が石膏像を入れるために用意したものだった。その箱をそのまま江知佳が石膏像を入れて持ってきたため、堂本の指紋がついていたのだった。各務は、その箱を利用して江知佳の生首を送ったため、堂本の指紋が検出されたのだった。

順一は江知佳の殺害を自供し、遺体は秩父の山中で見つかった。石像の首は砕かれてしまったのだという。また、律子の「義理の弟に犯された」との発言は、順一に乱暴されたことを言っていたのだった。律子は、結子が順一と共謀しているとは知らず、結子に相談した。夫・伊作に知られたくない律子に、結子は自分の保険証を渡し、「あたしの名前でこっそり中絶すればいい」と伝えたのだった。妊娠した子、産科医の証言などが一致すれば、亡くなったのが結子であると判断される考えたためだった。

さらに、順一は伊作を自分たちの計画に引き込むため、「律子さんが浮気をしている」と密告したのだった。相手は伝えていなかったため、伊作は敦志が浮気相手であると考えていたのだった。そのため、伊作は一方的に敦志との関係を断絶していたのだった。だが、誤解が解け、自らがだまされていたことを知る。そして、「母子像」の新作を作ろうと決意したのだった。

その事実を知った敦志は、「兄貴の誤解が解けなければよかったということか。・・・私たち兄弟は、絶交したままでいればよかったんだ」とつぶやく。

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