「タイトルは知っている。有名なシーンも何となく聞いたことがある。でも、ちゃんと観たことはない」
『レインマン』は、まさにそんな作品の代表格かもしれません。公開は1988年、もう40年近く前の映画です。それでも今観る価値があると、私は思っています。ネタバレなしで、その理由を5つ紹介します。
どんな映画?
主人公は、自己中心的で金に執着する若い車のディーラー、チャーリー。疎遠だった父の死をきっかけに、自分に兄・レイモンドがいたことを知ります。レイモンドは驚異的な記憶力を持つ一方、独特のこだわりと生活のルールの中で生きている人物です。
チャーリーは兄を連れ出し、アメリカ大陸を横断する旅に出ます。監督はバリー・レヴィンソン。主演はダスティン・ホフマンとトム・クルーズ。上映時間は約2時間13分です。
理由1:二大スターの演技がぶつかり合う
この映画の最大の見どころは、やはり二人の芝居です。ダスティン・ホフマンは、レイモンドを演じてアカデミー主演男優賞を受賞しました。大げさな「演技」に見えない、静かで細部まで作り込まれた役作りです。
対するトム・クルーズは、当時26歳。すでにスターでしたが、本作では苛立ちや弱さを抱えた複雑な青年を演じ、演技派としての評価を広げました。
クルーズは、子どもの頃に識字障害と診断され、読み書きに苦労してきたことを公に語っている俳優です。そうした経験を知ったうえで観ると、自分とは違う特性を持つ兄に戸惑い、反発し、やがて向き合っていくチャーリーの姿が、少し違って見えてくるかもしれません。二人の掛け合いは、40年近く経った今観ても古びていません。
理由2:ロードムービーの魅力が詰まっている
目的地に着くことよりも、道中で何が起きるかが物語の中心になる。それがロードムービーの醍醐味です。
車内の会話、立ち寄る町、思いどおりにならない小さなトラブル。そのひとつひとつで、兄弟の関係が少しずつ変わっていきます。派手な事件がなくても、ずっと目が離せません。
予定どおりにいかない旅を、あとから愛おしく感じた経験がある人には特に刺さると思います。
理由3:社会の見方に影響を与えた作品
公開当時、サヴァン症候群や自閉症は、今ほど一般に知られていませんでした。『レインマン』は大ヒットし、こうした特性を持つ人々のことが広く話題になるきっかけになりました。
ただし、観るときに知っておきたい点があります。レイモンドの突出した能力は、あくまで一人の人物の描写です。自閉症の人が皆あのような能力を持っているわけではありません。
「映画が社会の認識を動かした」という側面と、「映画が作ったイメージには偏りもあった」という側面。その両方を意識して観ると、見え方が深まります。
理由4:実在の人物から生まれた物語
この映画は実話そのものではありません。ただし、レイモンドの人物像は、脚本家が出会った実在の人物たちに触発されて生まれたと言われています。作り話のようでいて、根っこに現実の人がいる。そう知ってから観ると、レイモンドのふとした仕草や言葉の重みが変わってきます。
あわせて、1980年代後半のアメリカの空気も味わえます。物質的な成功を追いかける価値観と、それに疑問を抱く感覚。チャーリーという人物は、その時代の象徴のようでもあります。
理由5:静かに、じわじわ泣ける
この映画は、「泣かせよう」としてきません。大きな事件も、劇的な告白もありません。それでも、観終わるころには、兄弟のあいだに流れる空気がまったく違うものになっています。
派手な感動ではなく、あとから効いてくるタイプの余韻です。何もしていないのに疲れている…そんな夜に向いている映画です。
こんな人におすすめ
• トム・クルーズといえば『トップガン』や『ミッション:インポッシブル』のイメージしかなく、若い頃の演技派路線を観たことがない人
• 兄弟姉妹や親と疎遠になっていて、ふと連絡を取りたくなっている人
• 福祉・医療・教育など、人を支える仕事に就いている、あるいは目指している人。当時の描き方と今の理解を比べながら観られます
二大スターの演技、ロードムービーの面白さ、社会への影響、実在の人物から生まれた物語、そして静かな感動。『レインマン』には、今観ても色あせない魅力があります。
名作だからと身構える必要はありません。気軽に再生ボタンを押してみてはいかがでしょうか?

