営業マンの成田陽一郎(遠藤憲一)は、娘の結婚式に出席し、挨拶することになった。「今日は、この席を借りて、どうしても皆様にお話したいことがございます。本当ならば、私の隣には、妻がいるはずでした」と言う。そしてそこから、妻の話をするのだった。
その3年前、飲み会中に娘・みどり(徳永えり)から電話がかかってくる。妻・春子(原田美枝子)が亡くなったと告げられる。春子は認知症で、火事を起こして亡くなってしまったのだった。
葬儀の翌朝、陽一郎は妻の幻覚を見るようになる。台所で皿洗いをする様子、物干し台で洗濯物を干し、リビングでくつろぐ姿を陽一郎は克明に見る。
陽一郎は、「何か言いたいことがあるから、化けて出てきたんだろ?」と言うのだが、その妻の影は何も言うことなく、一緒に生活し続けたのだった。
陽一郎は、脳科学者で友人の高梨徹(遠山俊也)に相談する。高梨は、「認知症患者は、記憶が薄れていく。だが、忘れたくないという強烈な意思によって、時空間に定着することがあるんだ。それが、親しい人物の脳内で再生される…要は、人生の残像だ」と説明する。
高梨は、「早くこの家から出ていった方がいい。死んだ人間の記憶と一緒に生きるのは、決して楽ではない」と言うのだった。
陽一郎は、妻の残像が外出する様子を見かける。妻は病院へと行ったのだった。それは、妻が認知症と診断を受けた時の記憶であった。妻は電話をかけている様子だったが、その当時、陽一郎は仕事が多忙で電話に出ることができなかった。
それから3年間、妻の残像は、彼女が送った日々を再現し続けるのだった。陽一郎は、一人で家事を行い、生活をすることに寂しさを感じるようになる。妻はへそくりを使ってたまに豪華なランチをすることはあっても、その他は娘の貯金に回していたのだった。
「電車が家の前に出る時、手を振って挨拶する」という新婚時代の習慣を、未だに妻が引きずっていたことを知り、陽一郎は思わず笑ってしまう。
それから陽一郎は、妻の記憶と一緒に暮らすために仕事を辞めた。そんな中、みどりは結婚相手・靖彦を連れてきたのだった。みどりは、陽一郎の「お母さんも喜んでる」という言葉に反応し、「なんでそんなこと分かるの?ずっと介護してきたのは私なのに」などと言う。
妻が亡くなってから3年目、とうとう「二度目の別れ」が近づいてきていた。妻・春子は、夜中にいなくなり、徘徊を始めていた。朝になれば帰ってくると分かっていたが、陽一郎は探さざるを得なかった。気に入っていた公園に、彼女はいた。
その日を境に、妻の症状は悪化していた。そんなある日、新聞を見て彼女が笑っているのを見かける。陽一郎は、春子にプロポーズした公園の新聞記事を見かけ、笑っていたのだった。
春子が亡くなった日のことを言おうとすると、みどりは「お父さん、もういいよ。私があの日、お母さんを置いて外出しちゃったから…」と言う。だが、陽一郎は「ちゃんと話す」と言うのだった。
春子は、アイロンをかけている最中に立ち上がり、別の作業を始めてしまったのだった。それが原因で火事が起き、逃げ出そうとしたのだが、プロポーズされた公園の写真をとりに戻り、春子は逃げ遅れて死亡したのだった。
必死になって「逃げてくれ!」と陽一郎は願う。そこで、春子は「あなた」と陽一郎に呼びかける。陽一郎は、春子の手をとり、しっかりと握るのだった。
陽一郎はみどりに、「お母さんが逃げ遅れたのは、俺のせいだ。もっともっと、何かしてあげられたはずだ。お母さんとの時間、もっと大事にすべきだった」と謝罪する。そして、「みどり、靖彦さん、手に手をとって、幸せな人生を過ごしてください。そして、ありふれた人生のなかに、素晴らしいことがいっぱいあるのだと忘れないでください」と挨拶を締めくくる。大きな拍手に迎えられ、壇上を陽一郎は下りる。
陽一郎は、春子が大事にしていた写真を手にし、彼女が大好きだった公園に一人佇んでいた。そんな彼は、電車が来ると、かつての春子のように手を振るのだった。
世にも奇妙な物語 ’17春の特別編(2017年4月29日放送)
脚本:和田清人