簡単なあらすじ
1) 小劇団の脚本家・演出家である永田は、ある日、画廊を覗いていた沙希に出会う。沙希は永田に警戒していたが、永田はしつこく話しかけ、二人で喫茶店へと向かう。その後、しばらくしてから永田は沙希をデートに誘う。
2) 永田は、自らが脚本を書いた演劇『その日』に、沙希を出演させる。沙希と交際し始めた永田は、彼女のアパートに転がりこむ。沙希は専門学校を卒業し、27歳を迎える。地元の友人たちは結婚する中、永田は変わらなかった。
3) 永田は、自分が主催していた劇団の元劇団員・青山から、ヒモ同然の永田が優しい沙希を束縛し、追い詰めているということを伝えられる。自覚のなかった永田だったが、沙希は体調を崩し、酒びたりになっていく。心配した両親は、沙希に実家に戻るように言うのだった。
4) 実家に戻った沙希は、地元で就職することになった。今まで永田と暮らしていたアパートを引き払いに、沙希は久しぶりに永田と会う。永田は、『その日』の脚本を読み合わせしながら、脚本にはないセリフを言い始める。「迷惑ばっかりかけた」と謝罪する永田に、沙希は責めるでもなく、「永くんに会えてよかった」と感謝する。嗚咽しながら泣き出す沙希に、永田は演劇で使用した猿の面を使って笑わせるのだった。
起:沙希との出会い
小劇団の脚本家・演出家である永田は、高校の同級生の野原とともに劇団「おろか」を立ち上げた。だが、その前衛的な公演は酷評され、認められることはなかった。さらには、劇団員である青山、辻、戸田らは一気に劇団を去り、退団の話し合いで永田に対して怒りを覚えた辻は、傘で永田を滅多打ちにした。
そんな出来事があった後、永田は画廊を覗いていた沙希に出会う。「その靴、俺と一緒やな」と、全く異なる靴にも関わらず声をかける永田を、沙希は怪訝そうに見ていたが、永田が誘って、そこから一緒に喫茶店へと行き、連絡先を交換する。沙希は、女優を目指して上京し、その傍らで服飾の専門学校に通っていた。
永田は、別の劇団に脚本を書いて欲しいと依頼される。その依頼を受け、永田は脚本を書いている中で、沙希に「一緒に家具を選んで欲しい」とデートに誘う。そして、『その日』という脚本を書き上げ、「沙希に出演して欲しい」と頼む。脚本を読んで泣いた沙希は快諾し、永田のことを「才能がある」と言うのだった。『その日』への評価は、まずまず好評だった。
承:変わらぬ日々
永田は、沙希と交際するようになり、沙希のアパートに転がりこむようになり、同棲を始める。沙希が専門学校を卒業して洋服屋と居酒屋で働き始めるようになる。少しずつ沙希に変化がある中でも、永田は変わらなかった。
永田は劇場を借りるだけの資金がなく、自らの劇団「おろか」では、公演を行うことができなかった。そんな中、野原から誘われ、業界関係者も注目しているという、小峰が脚本を書いて・演出を行う劇団「まだ死んでないよ」の演劇を観にいく。そこで、小峰が天才であると永田は認めざるを得なかった。
そんな中、永田は劇団「おろか」の元女性劇団員だった青山から連絡を受ける。青山もまた、「まだ死んでないよ」の演劇を観に行っていたのだった。そこで、青山から「記事を書く仕事をしませんか?」と持ちかけられる。演劇についてのネット記事を書く仕事であり、永田はその仕事を始めるのだった。
永田は、わずかばかりの収入があっても、それを自分の好きな本やCDなどを購入してしまい、沙希との生活費は払わなかった。だが、沙希は優しくそのことを許すのだった。だが、そんな永田に青山は、ヒモ同然の永田に「世間」の見解を伝えるようになる。
永田は、安アパートを借り、そこで脚本を書くようになる。そして、酔っては沙希の寝ている部屋にやってきて、寄り添いながら寝るようになる。そんな永田に沙希は、「私、お人形さんじゃないよ」などとつぶやくのだった。
転:限界
青山が、沙希を誘って劇団『まだ死んでないよ』の演劇を観に行ったと知り、永田はメールで青山に抗議する。沙希のことを束縛するかのような言動に、青山は永田に対して批判を行う。そこから、メールで何度となく非難の応酬を繰り返すのだった。
ある日、沙希がアパートに帰ってこなかった。仕方なく永田は、沙希の勤める居酒屋へと向かう。その居酒屋では、劇団『まだ死んでないよ』の劇団員・田所が勤務していた。彼は、永田と沙希が別れたと思い、沙希が店長と帰ったことを明かすのだった。
青山や劇団員たちは、永田に対して厳しい見方をしていた。そして、沙希に対して同情していたのだった。沙希は、「最後まで永田の味方」をしていたのだという。永田は、「沙希に、返したいものがあるから」と、店長の住所を訊く。そして、沙希のことを迎えにいく。
沙希はそこから体調を崩し、居酒屋などでの勤務を辞めた。そして酒を飲むようになった。ある日、沙希は美容師からしつこくつきまとわれ、最後には罵詈雑言を吐かれた、と聞かされる。永田は、怒りを覚えて、美容院に乗り込もうとして、沙希に止められる。
そのことを聞かされた青山と野原は、永田に対して「沙希ちゃんを追い詰めるな」と注意するのだった。この一件の後、沙希は実家に戻ることになった。だが、思い出の場所であるアパートは残しておきたかったため、永田が家賃を払って、そのままにしておいた。
結:演劇
沙希は、地元で会社に勤務することになった。研修が終わった後、沙希はアパートを引き払いにやってくる。そこに永田も現れ、一緒に作業を行う。永田は、かつて沙希が出演した舞台『その日』の脚本を一緒に読み、互いに演じる。
その中で、永田は脚本にはないセリフを言い始め、「迷惑ばっかりかけた」と謝罪する。だが、沙希は「私は、東京来てすぐにこれは全然叶わないな、何もできないと思ったから、永くんに会えてよかった・・・永くんいなかったら、もっと早く帰ってた」と、恨むでもなく、永田に感謝の気持ちを伝えるのだった。
永田は、「演劇でできることは、すべて現実でもできるねん・・・今から俺が言うことはな、ある意味本当のことやし、全部できるかもしれへんことやねん」と言い、これからも2人で過ごす楽しい日々を語る。だが、それは2人には訪れ得ない未来だった。その話を聴いていた沙希は、嗚咽しながら泣き出す。
泣いた沙希に、永田は演劇で使用した猿のお面をつけて、おどけてみせる。「ばああああ」と奇声を上げることを、しつこく繰り返していると、ついに観念したかのように、沙希は泣きながら笑うのだった。