「タイトルは聞いたことがある。有名なヤクザ映画らしい。でも、観たことはない」
『竜二』は、そんな人が多い作品かもしれません。公開は1983年。40年以上前の映画ですが、2026年10月23日には4Kスキャン2Kリマスター版が期間限定で公開され、10月30日には柳楽優弥さん主演のリメイク版『RYUJI 竜二』も公開されました。観るなら、今がいいタイミングです。ネタバレなしで、その理由を5つ紹介します。
どんな映画?(ネタバレなし)
舞台は、1980年代の新宿・歌舞伎町。ヤクザの組の幹部・花城竜二は、羽振りのいい日々を送っていますが、どこか満たされません。離れて暮らす妻と幼い娘ともう一度一緒に暮らしたいと考え、足を洗って堅気になる決意をします。酒屋で働き始めた彼を、過去のしがらみが放っておきません。
監督は川島透。主演・脚本は金子正次です。1983年10月29日に公開され、上映時間は92分です。
タイトルの「竜二」は、主人公の名前です。ちなみに、脚本のクレジットは「鈴木明夫」となっていますが、これは主演の金子正次のペンネームです。
理由1:リメイク版の前に、元祖を観ておける
2026年10月30日に公開された『RYUJI 竜二』は、柳楽優弥さんが主演です。監督は水田伸生さんで、川栄李奈さん、萩原利久さん、伊藤英明さんらが出演しています。
リメイク版は、物語の骨組みは原作と同じですが、時代設定は1984年から1990年に変わっています。見比べると、どこが変わって、どこが変わらないのかが見えてきます。
リメイク版に出演する千原ジュニアさんは、『竜二』を「人生で一番観た映画」と語っています。先に元祖を観ておけば、この発言の重みも、より実感できるはずです。
理由2:自主制作の映画が、全国ロードショーまで広がった
本作は、大手の映画会社が作ったものではありません。金子正次が自ら脚本を書き、主演もした、自主制作の映画です。製作費は3000万円。自分の資金に加え、実家や知人からかき集め、配給会社のあてもないまま撮影に入ったと言われています。
公開当初の上映館は、全国で5〜6館。ところが連日満席となり、12月下旬からは全国ロードショーに拡大しました。「これを作りたい」という熱量が、画面から伝わってくる作品です。
理由3:暴力のないヤクザ映画だから、身構えなくていい
ヤクザ映画と聞いて、激しい抗争や流血を想像する人も多いでしょう。でも本作は、抗争や暴力描写のないヤクザ映画として評価されました。
主人公はヒーローではなく、今後の進路に悩む等身大の30代の男として描かれます。安月給で働く日々や、家族とのつましい暮らしの描写が丁寧で、公開当時は「ホームドラマ調ヤクザ映画」とも呼ばれました。
ヤクザ映画なのに、異例と言えるほど多くの女性客が加わったと言われています。ヤクザ映画に馴染みがなくても、入りやすい一本です。
理由4:豪華な人脈と、その後の作品とのつながりがすごい
金子正次の親友だった松田優作さんが、脚本を手に動いて協力したと伝えられています。主題歌「ララバイ」を歌ったのは、萩原健一さんです。助監督は、のちに監督として知られる阪本順治さんが務めました。
金子正次が遺した脚本は他にもあり、『チ・ン・ピ・ラ』(84年)、『ちょうちん』(87年)、『獅子王たちの夏』(91年)として映画化されました。
さらに2002年には、金子正次の生涯を描いた映画『竜二 Forever』も公開されました。高橋克典さんが主演です。この作品を知ると、今回のリメイクも長い物語の一部に見えてきます。
理由5:公開8日後に主演が亡くなった、「伝説」の映画
本作を「伝説」にしたのは、金子正次の最期です。1983年10月29日の公開初日、金子は新宿の映画館を訪れ、そこで倒れたとされています。そのて8日後の11月6日、胃がん性腹膜炎のため33歳で亡くなりました。本作が、彼の唯一の主演映画です。
金子は、病を抱えながらこの映画を作り上げました。死後には日本アカデミー賞の新人俳優賞など、多くの賞を受賞しています。
この背景を知ってから観ると、堅気になろうともがく竜二の姿が、単なる物語に見えなくなります。派手な求涙ではなく、観終わったあとにじわっと効いてくる余韻が残ります。
賛否のあるポイント
本作は、40年以上語り継がれてきた名作です。映画レビューサイトのFilmarksでは、リマスター版の平均が5点満点中3.9点と高めです。ただし、今観ると合わないという人もいます。否定的な意見としては、次のようなものがあります。ネタバレを避けるため、結末については触れずに書いています。
• 演出や展開が古臭い:「名作」と言われるものの、今観ると演出や展開が古く感じる、という声があります
• 展開が都合よく見える:「ヤクザに戻るしかなかった悲劇」を想像していると、足を洗うのも妻の家族に受け入れられるのもあっさりしていて、拍子抜けしたという意見があります
• 派手な展開がない:抗争やアクションを押し出さないじっとりした作りなので、ヤクザ映画らしい派手さを期待すると地味に感じられます
• 後味が重い:救いのない話だと感じる人もおり、観たあとに重い気持ちが残るという感想もあります
一方で、この地味さとじっとりした質感こそが魅力だと評価する声も多く、賛否がはっきり分かれる作品です。
こんな人におすすめ
• リメイク版の『RYUJI 竜二』が気になっていて、先に元祖を観ておきたい人
• 家族と仕事の間で、今の生き方をこのまま続けていいのか迷ったことがある人
• 柳楽優弥さんや千原ジュニアさんなど、リメイク版の出演者から興味を持った人
リメイク版との見比べ、自主制作という熱量、暴力のないヤクザ映画、豪華な人脈のつながり、そして公開8日後に訪れた主演の死。『竜二』には、今観る理由がそろっています。
派手な事件より、じっくり人物を見つめる映画が好きな人や、家族と仕事の間で揺れた経験がある人なら、よりおすすめできると思います。


