あらすじ(ネタバレなし)
ジャーナリストを志すも、挫折した益田純一は、社員寮つきの町工場に勤務することになる。同時に、同い年の鈴木秀人、事務職の藤沢美代子も入社してきたのだった。鈴木は人付き合いせずに変わった印象で、寝ているとうなされており、益田は不思議に思う。
そんな3人にはそれぞれ、人には言えない過去を持っていた。
益田は中学時代、イジメに加担して同級生の桜井学を自殺に追いやってしまっていた。さらには、その告発文を自分では書いていないのに、桜井の母親に「書いてくれてありがとう」と言われ、自分ではないと言えずにいた。
鈴木は、本名を青柳健太郎という。青柳健太郎は少年時代、小学生2人を殺害し、両目をくり抜いたという「黒蛇神事件」の犯人だった。青柳は逮捕後、医療少年院に入所することとなり、その後、鈴木秀人として社会生活を送ることになった。
藤沢美代子は、女優を志すも元バンドマンの達也に無理やりAV出演させられ、さらにはその後もしつこく付きまとわれていた。実家、そして勤務先でも「AVをばらまくぞ」と脅し、カネを要求されていたのだった。
益田は、鈴木が桜井に似ていることもあり、仲良くしたいのだと鈴木に伝える。さらには、作業中に指を切断する大けがを負うが、その場で適切な処置をしてくれた鈴木と親しくなる。また、美代子は、達也に殴られながら追い返してくれた鈴木に惹かれ、付き合うようになる。
一方、益田は鈴木の正体が青柳健太郎なのではないかと疑いだし、調査を始めるのだった…
あらすじ(ネタバレあり・結末まで)
益田は、ジャーナリストで大学の先輩である須藤から、青柳についての記事を書かないか、と提案される。高額な原稿料の上、ジャーナリストとしての展望が開けることもあり、益田は悩む。
益田は原稿を書き始めるが、表層の部分ばかりで、なかなか求められていることを書くことができなかった。そして、ついには「記事にはしないでください」と編集者に願い出るのだった。ところが、その記事はほとんどが書き換えられ、鈴木の異常性が全面に押し出される形で掲載されてしまうのだった。
記事が掲載された後、鈴木は会社や美代子たちの前から姿を消した。美代子もまた、鈴木の正体が青柳であることを気づき、大きなショックを受ける。美代子は鈴木からの電話に出ると、彼はこうしたことを自分の報いであると受け入れていたのだった。
そんな中、寮長の山内修司から声をかけられる。益田は、鈴木の正体ことで悩んでいるのを山内に打ち明けていた。山内は、自分の息子が暴走族に入り、バイクで事故を起こして3人の小学生が犠牲になったことを告白する。その罪に息子も向き合ってもらいたいと思うのと同時に、山内は鈴木にも自らの罪と向き合って生きて欲しいと思っているのだという。
さらに益田は、中学時代の同級生で、いじめを受けて自殺した桜井学の母親に、告発文を書いたのは自分ではない、と謝罪しに行くのだった。そこで、桜井の母親は告発文を書いたのは自分であり、さらに益田はいじめに加担したことを知っていた。母親は、益田に今後の人生を正しく生きて欲しいと願い、あえて告発文を書いてくれてありがとうと伝えたのだった。
益田は自らの償い、そして鈴木へのメッセージを送る意味で、実名による手記を書き、出版することに決める。そこには、桜井学の死に加担したこと、鈴木の残虐性ばかりではない本当の人間性、そして、友人でいつづけたいという思いが綴られていた。