簡単なあらすじ
資産家殺人事件についての真相
5年前、小さな港町・鼻崎町で資産家の老人が殺害されるという事件が発生する。その事件の犯人と目されていたのは、芝田という男で、指名手配されていた。その事件現場の土地を宮原健吾という男性は購入し、パートナーの星川すみれとともに暮らしだす。すみれは、家の工房で陶芸に打ち込んでいた。
だが、実は宮原は芝田とともに資産家の老人を殺害。さらに、口論となった芝田を殺害し、その土地に埋めた。逃亡しようとしていた健吾は、奪った金の延べ棒が何者かに盗まれていたことを発見する。盗んだのは、芝田と不倫関係にあった堂場菜々子の義母だった。菜々子の義母は、介護が必要な夫を置いて、芝田と逃げ出そうとしていた。
だが、芝田が殺害されたことで、義母は金を奪って逃げ出したのだった。健吾は、芝田の遺体の上に、すみれが陶芸を行う窯を作った。こうして、芝田の遺体があることが発覚しないよう監視し、なおかつ金の行方を探っていた。
そんな中、健吾は菜々子が行っていた編み物を見て、義母が芝田の不倫相手であり、金を奪った人物であると分かる。そこで、菜々子の子供・久美香を誘拐し、「子供を返して欲しければ、金を持って来い」と脅迫状を出すことにする。
だが、健吾が脅迫状をFAXで出しに行ったところ、久美香と一緒にいた相場彩也子が工房で「マッチを擦れるようになった」と久美香に見せていたところ、火災を引き起こしてしまう。結果、健吾は逃げ出した。火災現場から芝田の遺体が発見し、今回の事件の真相が露呈した。
久美香と彩也子
久美香は、幼稚園の登園時に交通事故に遭い、足が不自由となって車いすで生活していた。だが、実は小学1年生となった今、もう歩くことができた。仲の悪い両親をつなぎとめるため、足が不自由であるフリをしていたのだった。
そのことを親友の彩也子は知っていた。彩也子は秘密を共有し、久美香の足が不自由な振りを続けることを手助けする。
だが、彩也子は自分の書いた「翼をください」という詩が新聞に掲載され、久美香のような足の不自由な子供たちのため、「翼をモチーフにしたグッズを売って、収益を寄付する『クララの翼』という活動をしよう」と言い出した陶芸家・星川すみれが、雑誌掲載などでメディアに露出するようになってから、「久美香は本当は歩ける」ということが噂されてしまう。
久美香は、健吾と話をして「誘拐された振りをして、実は久美香ちゃんが歩けるということを明かそう」という計画を立てていたのだった。だが、健吾はその計画に乗じて金(きん)を取り返そうと考えていた。
だが、彩也子は久美香に「マッチが使えるようになった」と見せるため、工房に入ってマッチを擦り、結果、火災を引き起こしてしまう。
価格:1,512円 |
書籍情報
著者:湊かなえ
発行所:株式会社 集英社
『小説すばる』に2014年6月号から2015年8月号まで連載。
起:花咲き祭り
太平洋をのぞむ人口約7千人の港町・鼻崎町で、堂場菜々子は仏具店の嫁として勤めていた。夫・修一は食品加工会社・八海水産に勤務しており、小学校1年生の娘・久美香がいた。介護を要する義父がいたが、他界。義母は義父の介護を続ける生活に嫌気が差し、行方をくらませていた。
久美香は、幼稚園の登園時に交通事故に遭い、足が不自由となって車いすで生活していた。そんな久美香と、東京から父親の転勤によって鼻崎町にやってきた小学4年生の彩也子は仲良くなり、親友となる。子供同士が仲良くなったことから、菜々子と彩也子の母・相場光稀は交流をもつことになった。
鼻崎町の美しい景観に魅せられて家を建てた宮原健吾とともに引っ越してきた陶芸家・星川すみれたちが中心となって、「第一回花咲き祭りatユートピア商店街」なる祭りが開催されることになる。商店街で祭りを行うこととなり、菜々子は嫌々ながら参加することになる。
承:火災発生
そんな祭りの最中、クリームコロッケの無料配布を行っていた場所で、天ぷら油から火が上がり、火災が発生してしまう。調理を行っていた女子高生たちや、大人たちに混じって、久美香と彩也子もいた。
足の不自由な久美香を彩也子は背負って助けようとした。そんな中、彩也子は転倒して額を傷つけてしまう。その後、女子高生たちが手伝って久美香と彩也子たちは無事に助けだされた。
「友達を救って偉かったからご褒美」ということで、菜々子は彩也子に、すみれの工房で翼のストラップを買い与える。彩也子は、「大変な思いをした久美香ちゃんにも、プレゼントしたい」ということで、お揃いの翼のストラップを買ってもらい、久美香にプレゼントするのだった。
彩也子は、翼のストラップをモチーフに「翼をください」という詩を書き、それが教師の目にとまって、新聞に掲載されることになる。自身の商品が話題となり、自らの知名度を高めたいと考えていたすみれは、自身のウェブサイト上に詩を掲載したいと彩也子の母・光稀に申し出る。
さらに、光稀にファッション系雑誌『FROWER』の関係者がいることを知り、すみれはその雑誌に売り込んで「翼をモチーフにした商品を売って、その収益を障害者のために募金する『クララの翼』という活動をやっているという記事を掲載してもらいたい」と言う。
結果、「クララの翼」活動に関する記事が掲載され、さらには、すみれのみローカルテレビ局の取材も受けることになった。だが、このことがきっかけで、すみれは同じ”芸術村”のアーティストたちから妬まれることになる。
さらに、火災現場に居合わせた女子高生たちの証言から、「久美香は本当は歩けるのではないか」という噂が立ち始める。久美香は、車いすでやってきていたが、火災が起きて逃げる際に、歩いていたのだという。
本当は歩ける子供がシンボルとなり、募金活動となれば、詐欺罪で捕まってしまうのではないか、とすみれは危惧するが、菜々子は「久美香がわざと歩けないフリをしているなどと言うのはひどい」とすみれに抗議する。
だが、実は久美香の体自体には問題はなく、心因性で歩けないということが菜々子の口から判明する。すみれは早めに「クララの翼」を終了すべきではないかと考え始める。「クララの翼」に関するネット上の中傷は続き、光稀は彩也子にも被害が及んできていることから、すみれにすぐ募金を行うよう提案し、すみれは収益100万円を集めたところで募金を行った。
転:誘拐事件
「久美香は本当は歩けるが、歩けない振りをしている」という噂が町内で囁かれ続ける。「久美香が普通にトイレ内では歩いて用を足している」ということを確認するため、同級生が監視しているような素振りもあり、トイレを我慢して久美香は膀胱炎になってしまってもいた。
そんな中、久美香と彩也子は何者かに誘拐されてしまう。FAXで送られてきた脅迫状には、「子供たちは預かった。返して欲しければ今夜10時、鼻崎灯台に金(きん)を持ってこい」と書かれていた。
「金(きん)を持ってこい」という指示に、菜々子は身に覚えがあった。義母が義父を置いて家を出た際、自分たちへの手紙とともに、金の延べ棒が置かれていたのだった。
鼻崎町では、資産家の老人が殺害されたという事件が起こっていた。その犯人と目されていたのは八海水産の社員・芝田だった。指名手配されていたが捕まっておらず、「隠していた金を持ち出すため、鼻崎町で目撃された」という噂も流れていた。
その事件に義母も何らかの形で関わっており、姿を消す際に手紙に金の延べ棒を置いて行ったのではないか、と菜々子は考えていた。
警察に通報するかどうか、堂場および相場の両親たちが話し合っていたところ、岬で火災が起きる。そこは、すみれと健吾の工房兼自宅だった。もしや、そこに久美香と彩也子がいるのではないかと考えた菜々子と光稀たちは向かう。すみれは、東京で友人の結婚式に出席するため、不在だった。
火災現場近くで子供たちの名前を叫ぶと、久美香と彩也子たちが出てくる。久美香は、足が不自由なはずにも関わらず、歩いていた。
結:真相
火災現場の捜査が行われ、すみれの使っていた窯の下から、遺体が発見される。その遺体は、指名手配されていた芝田だった。芝田は、健吾に殺害されて埋められていたのだった。芝田と健吾は資産家の老人を殺害後、仲違いをして健吾は芝田を殺害した。
芝田は金を奪って不倫関係にあった菜々子の義母と逃亡しようとしていた。だが、その計画は芝田が殺害されたことで狂い、待ち合わせ時刻に1時間遅刻してやってきた義母は、男2人が争う中、金を奪って逃げ出したのだった。
残った金を使って健吾は、殺人事件の現場の土地を買って、芝田の遺体があること発覚させまいと、そこに工房や家を建てた。そして残りの金の行方を探っていたのだった。健吾は、菜々子が義母から教わったという編み物から、義母が金を奪って逃げたこと、そして菜々子が金や義母の行方を知っているのではないか、と誘拐事件を考えたのだった。
事件後、久美香はその後、歩いて元気に登校するようになる。その一方で、障害のある久美香の世話で、唯一繋ぎ止められていた夫婦の関係は悪化し、狭い町での暮らしに嫌気が差していた。菜々子は「健吾が金を持って迎えにきてくれないか」と淡い期待をしていた。
一方、光稀・彩也子たち相場一家は、夫の転勤でベトナムに行くことになる。すみれは、結婚して日本を離れた同級生の軽井沢にある工房に住むことになった。
彩也子の手記で、実は久美香は出会った当初から歩けること、両親の仲が悪くならないよう、わざと歩けないフリをしていたことなどが明かされる。さらに、健吾と話をして、「誘拐された振りをして、実は久美香ちゃんが歩けるということを明かそう」という計画を立てていたのだった。だが、健吾はその計画に乗じて金(きん)を取り返そうと考えていた。
だが、彩也子は久美香に「マッチが使えるようになった」と見せるため、工房に入ってマッチを擦り、結果、火災を引き起こしてしまったのだった。