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荻原浩「いつか来た道」あらすじ・ネタバレ

   

簡単なあらすじ

1) 「私」(杏子)は、母に画家志望の男との交際を反対され、それに反発するかのように故郷を離れた。父の葬儀の後、13年間も母には会っていなかったが、弟・充に「いま会わないと、後悔すると思うんだ」と言われ、母に会いにやってくる。

2) 私は、母が70代になり、年相応に老いていることに驚きを隠せない。母はかつて、美大を卒業後に画家として活躍していた。だが、そんな彼女は現在、足腰が弱って車椅子に乗り、介護ヘルパーに頼る生活を送っていた。

3) 私は美大受験に失敗し、母は「自分の暮らしをきちんとできない人には、絵を描く四資格も、生きていく資格もない」と言い放った。忘れたくても忘れられない母との記憶がいくつもあったが、母は既に忘れてしまっていた。彼女は、認知症になり、そのこともあって充は「いま会わないと後悔する」と言っていたのだった。

4) 母は「すべての物事に自分勝手な美意識で優劣をつける人」であり、私は反発を覚えていた。だが、かつて肩肘張っていた母の様子が老いて変化し、私は許せるようになる。言うまいと思っていた「また来るから」という言葉を、私は母にかけて帰宅する。

5) 帰り道、私はかつて幼い頃に生み出した自分の分身「マユちゃん」が後ろをついてくるのを感じる。マユちゃんは、母のことを愛し、慕っていた自分自身でもある。家を出た後、私はマユちゃんを置き去りにしていた。

6) 私はマユちゃんに、「ごめんね、ずっとほうっておいて。でも、もういいんだよ」と言う。「マユちゃん」を自分の中に受け止め、同化した私は、一人となって電車に乗るのだった。

詳細なあらすじ

「私」(杏子)は、16年ぶりに故郷を訪れる。様変わりした駅前通りを通り、まるで廃屋のような実家に辿り着く。

16年もの間、実家から遠のいていたにも関わらず、やってきた理由は弟・充からの連絡があったからだ。「ママに会ってやってよ。会いたがってるんだ。・・・いま会わないと、後悔すると思うんだ」という弟からの電話に、私は重い腰を上げることにしたのだった。

母は、画家であり、今もアトリエで絵を描いている。73歳になる母親は化粧をしていたが、年相応に老けていた。「ああ、あなた。何しにきたの?」と言われ、私は、それが父の亡くなった葬儀以来、13年ぶりに会った娘への言い草か、と思う。

「充から連絡をもらったから」と言うが、母は「充・・・」と、他人の名前を口にするかのような反応だった。足腰も弱まり、車椅子に乗った母は、認知症を患っていた。このようなこともあり、充は私に「早めに会ったほうがいい」と言ったのだった。だが、私は母がどのような状態なのか、この時点ではまだ分からなかった。

母は、「すべての物事に自分勝手な美意識で優劣をつける人」であり、その価値観を押し付けられることに、私は幼い頃から反発を覚えていた。「この人とは、二度と会わないでもいい」とすら思っていつつも、心のどこかでは母を意識していた。

家を出たのは、かつて母親の絵画教室に通っていた画家志望の男との交際を、母に反対されたからだった。その男を支えるため、私は夜の店で勤めるようになった。だが、その男も私の流産をきっかけに姿を消してしまった。

私は、母がかつては決して見せなかった、「いくつも同じピーナッツバターを冷蔵庫にしまいこんでいた」「紅茶の葉をカビさせていた」「下品に桃をむしゃぶりつく」といった老いによる変化に気づく。

そんな中、私は窓の向こうに「おかっぱ頭の女の子」を見る。その女の子は、かつて自分自身で作り出した「マユちゃん」という女の子だった。私はかつて、母の開く絵画教室で、絵を描いていた。自分の絵のどこがダメなのか、母に「解説」されている中、私は自分ではなく「マユちゃん」が怒られていると考え、やり過ごしていた。

「マユ」とは、かつて飼っていた猫の名前だった。姉・蓉子が交通事故で亡くなったあと、まもなくして死んでしまった。

私は、画家を目指して美大を受験するも失敗。さらには滑り止めだった造形大学にも落ち、母は私の才能を見限った。予備校に通い、再チャレンジするも結果は同じであり、私はOLとなった。

母は、美大に落ちた私に「自分の暮らしをきちんとできない人には、絵を描く四資格も、生きていく資格もない」と言い放った。そのことを覚えていた私は、母が現在、老いて自分の生活もままならなくなっているのを見にやってきてやろうとも思ったのだった。だが、そのことを母に言っても、「なんのこと?」と言う。

さらに、母は「あなた、今日、学校は?課題は終わったの?美大って、課題が全てなのよ」などと言う。どうやら、母は私が美大に通っていると思っていたのだった。そこで私は、ようやく母が認知症であることに気づくのだった。

私が忘れたくても忘れられないことを、母が既に何もかも忘れてしまっていると思うと、たまらなくなって私はアトリエを出る。キッチンに向かうと、そこにはまたおかっぱ頭の少女がいた。

アトリエに戻ると、母は私のことを介護ヘルパーだと思い、甘えたような喋り方をしていた。私は、母に「夜の店を持つことになった」と言おうと思っていたが、その言葉を飲み込む。その代わり、言わないはずだった「また来るから」という言葉を口にするのだった。

実家を後にして、私は後ろを少女がついてきているのを感じる。それは、かつて自分自身の分身として作った「マユちゃん」だった。駅で、私は彼女とともに電車を待つ。

私は、「ごめんね、ずっとほうっておいて。でも、もういいんだよ」と思う。「マユちゃん」を自分の中に受け止め、同化した私は、一人となって電車に乗るのだった。

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