神奈川県川崎の廃ビルでボヤ騒ぎが発生し、その中で身元不明の男性遺体が発見される。飲酒している様子もあり、転倒して頭部を打ったことによる事故死であると考えられていたが、川崎警察署の滝沢圭刑事は、殺人の可能性を疑っていた。
強行に司法解剖に持ち込み、その結果も明らかな殺人の痕跡は認められなかった。身元不明のまま、遺体が引き取られようとする中、そこで引き取りにやってきた御木本葬儀社の御木本悠司社長は、遺体が「自分の父親・幸大である」と言うのだった。
だが、滝沢はその主張に疑いを持ち、さらには悠司の兄・昇一もまた、自分の父親ではないのではないか、と疑う。現に、悠司は業者に頼んで家中をクリーニングしており、あたかも幸大の指紋を検出させないようにしているかのようだった。
昇一は、子供の頃の絵に付着した幸大の指紋、そして遺体の指紋を確認し、一致していたことが判明する。さらには、DNA鑑定が実施されたところ、やはり遺体と幸大のDNAは一致するのだった。
こうしたことから、遺体=幸大という事実は揺らぎようもないかに思われたが、滝沢刑事は疑い続ける。悠司が、遺体を見た途端に「殺したか…」とつぶやいていたことも、滝沢刑事の疑いを強める一因となっていた。
さらには、火災は12月8日に発生し、事件も同日に起きたかのように思われていたが、腕時計が6日で止まっていた。そのため、実際の事件は6日に起きたのではないか、と滝沢刑事は睨んでいた。
そして、幸大が生前、「自分の葬儀は挙げないでくれ」と頼んでいたにもかかわらず、悠司が「盛大に葬儀を執り行う」と言い、幸大を慕う葬儀関係者たちの妨害にもかかわらず、葬儀を強行しようとすることにも疑問を持っていた。幸大は、少女連続殺人事件の被害者の葬儀で、少女の名前を読み間違い、「自分は葬儀屋失格であり、葬儀を挙げてもらう資格はない」と考え、さらには社長の座を悠司に譲ったのだった。
・遺体は本当に幸大なのか?
・川崎で発生した被害者が「喉を十字に裂かれている」少女連続殺人事件の現場近くで目撃されていた幸大は、本当に犯行に関わっていたのか?
・悠司はなぜ父親の希望に反して葬儀を執り行おうとしているのか?悠司の抱いている秘密は何なのか?
数々の謎が渦巻く中、ついに幸大の告別式が執り行われようとしていた。
滝沢刑事は、幸大の告別式に乗り込み、そこで参列者の中にいる「幸大本人」に出てくるよう呼びかける。幸大は、亡くなってはいなかったのだった。
廃ビルで死亡していたのは、幸大の一卵双生児の兄であった。幸大は生後間もなく養子に出され、その後、兄とは20数年会うことはなかったのだった。ところが、不動産会社を営む幸大の兄・森野聰は幸大を探してやってきた。
森野は、幸大に「自分の会社に入らないか?」と提案するのだが、幸大は断る。結果、再び絶縁状態になったのだった。その後、森野は会社が倒産してホームレスとなり、幸大は葬儀屋として成功していた。森野は幸大を妬み、脅迫電話のようなものをかけ始める。
さらには、「喉を十字に裂かれた遺体」にトラウマのある幸大への嫌がらせのため、自らも少女を殺害し、喉を十字に裂くという凶行に走る。事件現場で自分に似た男が目撃されているため、幸大は、兄・森野が犯人であると気づくのだった。
幸大は、興信所を使って森野の居場所を突き止める。その調査結果報告書を読んでいたため、悠司は森野の存在を知っていたのだった。幸大は、森野を廃ビルへと呼び出し、事件への関与を質問し、森野はそれを認める。怒りに駆られた幸大は、つい森野を突き飛ばしてしまい、森野は頭部を強打して死亡してしまったのだった。
幸大は、息子のため、会社のため、自首することはできなかった。かといって、廃ビルで人の出入りはなく、このままでは遺体は腐敗していく。そのことは葬儀屋として耐えられず、遺体を損傷させないためにドライアイスを近くに置いておいたのだった。そのため、遺体の腐敗が遅れたのだった。死亡日時は6日であり、それでも遺体は発見されず、8日になって幸大はボヤ騒ぎを起こし、遺体を発見させたのだった。
悠司は、遺体が幸大ではなく、森野であるとすぐに分かった。そして、森野を殺害したのも父・幸大であると理解したのだった。だが、幸大は悠司が子供の頃、兄・昇一に「殺す」と冗談で言っただけでも頭を叩いて叱ったほど、葬儀屋として人の生死を重いものとして捉えていた。万が一、人を殺めてしまうようなことがあれば、自殺してしまうのではないかと思ったのだった。
そのため、悠司は「父・幸大が死亡した」とした上で、盛大な葬儀を開き、幸大をおびき出し、自首を勧めようと考えていたのだった。
子供の頃の絵に、森野の指紋を付着させ、遺体=幸大であると思わせたのも悠司だった。さらに、DNA鑑定が一致するのも、幸大と森野が一卵性双生児であることから当然のことだった。
滝沢刑事は、葬儀会場で真相を明らかにする。もし滝沢刑事がそうしていなければ、その場で悠司が司会をしつつ、真相を語るつもりであったのだった。幸大は森野を突き飛ばし、死に至らしめてしまったことを自供する。そこで悠司は、幸大に「生きて欲しい」と、自殺を思いとどまるように求めるのだった。