真壁修一は、出所して県立図書館に向かい、自らの逮捕された翌日からの新聞を調べ始める。だが、そこには自らが起きると考えていた事件は掲載されていなかった。
真壁は、寝静まった民家を狙い、現金を盗み出す「ノビ師」であり、刑事たちからは「ノビカベ」と呼ばれていた。
新聞には、稲村道夫・葉子宅に侵入して逮捕されたのは正しかったが、「葉子さんが物音で目を覚まし110番」という部分は誤りであった。葉子は眠っていなかったのだ。真壁は、「女は最初から起きており、夫を殺す計画を胸に布団の中にいた」と考えていたのだった。
真壁には弟がいたが、弟は空き巣で逮捕された。息子のことを悲観した母親は、弟と無理心中。父親も救い出そうとして死亡した。真壁自身は、傷害事件を起こして、その後はノビ師として窃盗を繰り返していた。
真壁は、小学生時代の同級生で刑事の吉川聡介に会いに行く。そこで、逮捕された夜、自分の自転車にマイクロ発信機が取り付けられていたのではないか、と指摘する。吉川は暗にそれを認める。
真壁は、「俺が入った後、稲村の家で変わったことはなかったか?」と訊ねる。稲村家には、「宵空き」の手口で窃盗犯が入った。その後、稲村家は夫が連帯保証人となり、家屋敷をとられ、離婚することになったのだという。
真壁は次に、宵空きの手口を繰り返す黛昭夫に会う。馬渕刑事の当直予定表データを材料にし、真壁は稲村家の情報を引き出そうとする。真壁は、脳内に存在する弟・啓二に表を記憶させていたのだった。啓二は記憶することが得意であった。
真壁は、黛に「ドレッサーに化粧瓶は並んでたか?」と訊ねる。黛は、「ラ・ベリテが、大小ズラッと並んでた」と明かすのだった。
真壁は啓二に、「稲村家に、あるべきもので、なかったものはなんだ?」と訊ねる。啓二は「ライターだ。タバコがあってライターがなかった」と答える。真壁は、葉子がライターを握りしめていたのではないか、と考える。
自分の家財道具がなくなっていれば、警察に疑われると考えた葉子は、靴も小物もあきらめるつもりだった。だが、店頭売りしていないようなラ・ベリテだけはあきらめきれず、運びだしていたのだった。葉子は、化粧品をクルマに積んであり、鍵も自分でライターとともに持っていたと真壁は考える。
真壁は次に、葉子を探すことにする。大室誠が、稲村家の競売に絡んでいないかどうかを確認する。そこで、葉子には篠木辰義というヤクザがついているのだと明かす。篠木が競売に参加し、家財道具やクルマなどを8万円で落としたのだという。
葉子が水商売をしているという情報を得て、さらに大室からの店の情報を待つことにする。真壁は、葉子が保険金狙いで夫を殺害するように指示されていたのではないか、と考える。
そんな中、自転車にマイクロ発信機が仕掛けられているのを真壁は発見し、馬渕刑事が取り付けたのではないか、と考える。真壁は、その発信機をそのままにし、陽動に使えると考えるのだった。
真壁は、吉川刑事に篠木のことを訊ねる。篠木は関西に帰り、葉子も一緒なのだと答えた。だが、吉川刑事はウソをついていたのだった。吉川刑事もまた、葉子の挙動不審な様子で夫殺しの計画に気づいていたのだった。
真壁は、吉川刑事を尾行しており、彼が葉子の自宅のあるマンションの郵便受けを探ったところで声をかける。
吉川刑事たちは、葉子を署に呼んで事情聴取した。刑事に目をつけられていることを知った篠木は、葉子から手を引いたのだった。結果、篠木は大阪に帰り、吉川刑事は葉子と愛人関係を結ぶんだ。
吉川刑事は、「俺はこの先、お前を野放しにする。他の係りの情報も流してやる。お前はすべてを忘れる」と条件を提示する。真壁は、吉川の官舎のカレンダーで、当直を示す赤丸が一つ多かったのに気づいた。そこから、吉川刑事と葉子が愛人関係にあるのではないか、と推察したのだった。
真壁は、吉川刑事と掴み合った際、マイクロ発信機をポケットに忍び込ませた。馬渕刑事に不倫現場を発見させようとしたのだった。「別の男と出会っていれば、別の人生があったのかな」という啓二の言葉に、真壁は久子のことを思う。「別の人生が用意されれば、久子はまたあの笑顔を取り戻せるだろうか」と考えるのだった。