簡単なあらすじ
1) 新人漫画家・中田伯(永山絢斗)は、画力向上のために三蔵山龍(小日向文世)のアシスタントを行っていた。長年アシスタントを務めるチーフアシスタント・沼田渡(ムロツヨシ)は、中田の教育担当として面倒をみていた。
2) 沼田は、次々とアイデアが沸き、三蔵山にも認められる中田の才能に嫉妬するようになる。そんな中、中田はネームノートを仕事場に忘れて行く。それを見た沼田は、中田の漫画の迫力に圧倒され、思わずインク瓶を投げてしまう。
3) 沼田は、インクまみれとなったネームノートを隠していたが、三蔵山に言われて渡す。三蔵山は「自分が読んでいる最中に、うっかりインク瓶を落としてしまった」と罪をかぶって謝罪する。
4) 沼田は、自分のボツとなったネームノートを読み、中田が泣いていることに驚く。中田には作品の真意が伝わり、「読者に伝わるようにして、作品を描くべきだった」と後悔する。40歳を迎え、いつしか漫画を描くことを先延ばしにしてきたことに気づく。
5) そんな「いつか、いつか…」と思い続け、夢を追っているだけの状態に終止符を打ち、沼田は三蔵山にアシスタントを辞め、漫画を描くことからも足を洗うことにすると告げる。そして、中田にインクをこぼしたのは自分であると明かし、謝罪するのだった。
起:才能
黒沢心(黒木華)は、新人漫画家・中田伯(永山絢斗)の担当していた。そんな中田は画力向上のため、三蔵山龍(小日向文世)のアシスタントを行っていた。
長年アシスタントを務めるチーフアシスタント・沼田渡(ムロツヨシ)は、中田の教育担当として面倒をみていた。沼田は「中田君が売れたら、アシスタントに雇ってもらおうかな」などと冗談で言うが、中田はその冗談を真に受けてしまって「いいですよ」などと言う。
なにかと世話を焼く三蔵山の妻に「放っておいてください!」などと言うことに、沼田は注意するが、「祖父の家で育った」「母親から放置されて育った」といった複雑な家庭環境に、沼田はそれ以上、強く注意することはできなかった。
だが、中田は、読みきり作品が掲載され、さらに三蔵山は中田の才能に一目置いていた。そんな中田に沼田は、劣等感を抱くようになる。さらに、中田は心に、「いくらでも描けます。早く連載やらせてください」と、何冊ものネームノートを心に渡す。そんな中田に、沼田もかつて作品持ち込みをしていた頃の自分を重ねる。
承:嫉妬
中田のネームノートは8冊あった。だが、心は7冊目がないことに気づく。その7冊目は、中田が渡し忘れてアシスタント部屋の机の上に置きっぱなしにされていた。そのネームノートを沼田は見かけ、勝手に読んでしまう。
すると、その作品のあまりの迫力に、襲われるかのような恐怖感を抱き、沼田はインク瓶を投げてしまう。結果、ノートはインクまみれになってしまう。
心は、一世風靡をした天才漫画家・牛露田獏(康すおん)の名作『タイムマシンにお願い』の電子書籍化を担当することになる。和田靖樹(松重豊)編集長とともに、心は牛露田の家を訪れる。巨額の印税を手にしたとは思えないような安アパートに住み、生活保護を受けて酒浸りの日々を送っていた。
妻は既に他界し、中学生の娘・あゆ(蒔田彩珠)とともに暮らしていた。牛露田は荒んだ生活で廃人のようになっていた。
和田は、電子書籍化の許可をもらいたいと話をするが、牛露田は「漫画は紙で読むもんだ…1億持ってきたら考えてやるよ」と言って許可しない。
さらに、和田が「使用を許可していただければ、使用料をお支払いします。そうすれば、暮らし向きも少しは楽に…」と言うと、牛露田は酒を和田にかけて追い返す。心は、あゆに名刺を渡し、「困ったことがあったら連絡して」と言う。
三蔵山は、沼田の様子がおかしいことに気づき、「ノート、持ってるんだろ?出しなさい」と言う。三蔵山は、「私が返しておく」と言い、中田には「私が見せてもらおうと思ったら、インク瓶をひっくり返してしまって」と謝る。
転:不安
心は、中田からインクまみれのネームノートを届けられ、「まさか、イジメられているのでは…」と考える。三蔵山の仕事場でそんなことが起こるとは考えられない、と皆は口々に言うが、安井昇(安田顕)は「せまい環境に閉じ込められたら、イジメが起こる」と言い、心は「中田がイジメられているのではないか」と不安になる。
中田は、三蔵山の妻が犯人ではないかと疑っていた。事情を聞くため、心は沼田の家を訪れる。沼田は、「中田君は、生い立ちが複雑で…母親との確執があり、母親のように接してくる奥さんに対応できないんです」と言う。その一方で、自分が中田の眼中にすらないことにショックを受ける。
心は、警察から「子供を補導した」という電話を受ける。あゆは、心のことを「母親」と言って、引き取りにきてもらったのだった。
中田は、沼田のボツネームを偶然見つけて読む。沼田は、「お前に読ませられるような、大したネームじゃない!」と怒鳴るが、中田は泣いていた。「単なる自己犠牲のストーリー」と思われてしまうことが多い中、中田は「これは、自分の存在を問う物語なんです」と、沼田の意図をしっかりと汲んでいた。
帰り道、「いつか描こう。いつか、いつか…」と漫画を描くことをいつしか先延ばしにしていたことに沼田は気づく。
心は、あゆのバイト先である新聞配達店を訪れ、そこであゆと母親の話をする。あゆは、「あのクズ親父の代わりに働き過ぎて、お母さんは死んでしまったの。殺されたんだよ。漫画なんてくだらないもののために」と、漫画や父親のことを憎んでいるのだと明かす。
心は、「凄い漫画家だったんだよ、お父さん」と言うが、あゆは「普通がよかった」と言う。そんなあゆの言葉に、心は「どうすれば、この子をもっと笑わせられるか…」と悩む。
結:決断
沼田は、父親から贈られた誕生日プレゼントで、自分が40歳になったことに気づく。そして、自分のボツとなったネームノートを見なおし、ついにある決断を下す。
沼田は、父親から贈られた大吟醸を持参し、三蔵山にアシスタントを辞めさせて欲しいと告げる。「いつか良い編集者に巡り会えると思っていました。いつか、漫画家として大成する自分を想像している間だけ、自分が特別だと思えたんです」と言う沼田に、三蔵山は「自分と向き合ったんだな」と言う。
アシスタント最終日、沼田は中田に「インクをぶちまけたの、俺だ」と謝罪する。そして、沼田は「頑張ってくれ、俺の分まで」と言うが、中田は「無理です。僕は僕で、他の人にはなれませんから」と、相変わらずの調子で、沼田は笑ってしまう。
「常に漫画のことを考えていた。現実なんか要らなかった。漫画をずっと描いていたかった…」と思いながら、沼田は実家に帰るのだった。
上手くいく作家と、上手くいかない作家。その分岐点はどこにあるのかと問う心に、五百旗頭敬(オダギリジョー)は「作家は必ず、壁を乗り越えなきゃいけない。その壁を乗り越えられるかどうか…そこにかかっているんじゃないかな」と言う。
沼田は家業の酒屋を継ぐことにした。沼田酒店の新酒には、沼田のイラストつきのポップが飾られていた。
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