簡単なあらすじ
1) 万年係長の八角民夫は、業務態度について年下の上司である営業一課の坂戸宣彦課長から強い叱責を受けた。そのことで、坂戸はパワハラ委員会にかけられ、課長から外されて人事部付けとなる。
2) 大半の社員が坂戸に同情し、その処分に疑問を持つ中、新たに営業一課の課長となった原島万二は、八角に事情を問いただす。八角は、そこで坂戸が処分された真実について明かすのだった。
3) 坂戸は、強度不足のねじを使用し、不正にコストカットを行っていたのだった。そのことを八角は、営業部部長・北川誠に告発した。北川は宮野和広社長に報告する。宮野は、隠蔽を指示したのだった。だが、カスタマー室の佐野健一郎が告発文を社長や北川、製造部部長らに送ったことを発端とし、ついには副社長・村西京助副社長にも知られてしまう。村西は、親会社・ソニックからの出向者であり、ついにはソニックにも事実は報告された。
4) ソニックの徳山郁夫社長もまた、事実隠蔽を指示する。だが、八角はマスコミへと不正やリコール隠しをリークし、ついに世間に公表されるのだった。さらに、八角は宮野社長が下請け会社に不正を坂戸に持ちかけるよう指示していたことを暴き、宮野は特別背任容疑で告発されることとなった。
詳細なあらすじ
東京建電の営業第一課の坂戸宣彦課長は、営業部のエースと呼ばれる男だった。一方、万年係長・八角民夫は、仕事に対するやる気もなく、定例会議でも居眠りをしていた。
八角は、営業部部長・北川誠とも同期で仲が良いということもあり、就業態度を問題視されることはなかった。だが、定例会議での態度をきっかけとし、坂戸は、八角に強い叱責を行うようになる。
そんな中、坂戸が八角への叱責について、パワハラ委員会にかけられることになる。社内の誰しもが坂戸に同情し、八角の訴えはパワハラ認定されないものと考えられた。だが、八角の訴えが認められ、坂戸は営業一課長から人事部付けとなる。代わりに、営業一課長の後任には、二課長の原島万二が任命された。
花の一課に異動となり、「万年二番手」であった原島は喜びつつも驚く。そして、坂戸への裁定は厳しすぎるのではないか、と考える。
原島は、一課長となり、課員たちと面談を実施することとなった。そんな中、原島は八角と面談を実施する。そこで、原島は身上書を見ると、係長になるまでは同期トップであったにも関わらず、途中から上司の評価が悪くなっていることに気づく。その上司というのは、現在では親会社・ソニックの常務取締役を務める梨田元就だった。
梨田は、苛烈なノルマを課し、手段を問わない営業を部下たちに行わせていた。そんな中、ユニットバスを売りつけた老人が自殺してしまい、八角は梨田に反発するようになったのだった。
そこから八角は会社を辞めるでもなく、「出世というインセンティブにそっぽを向けば、こんな気楽な商売はないさ」と考えるようになったのだという。原島は、「ならば、どうして坂戸をパワハラで訴えたりしたんです?」と問いかける。八角は、「坂戸は許すわけにはいかなかった」と言い、そこからなぜこのような事態が起きたのかを明かすのだった。
坂戸は、「ねじ六」というねじ会社に、非情とも言える低価格での製品納入を要求していた。さらには、「別会社の方が安い」と言い出し、ねじ六との契約を打ち切り、トーメイテックから仕入れを行うようになっていた。だが、坂戸の後任として原島が一課の課長となったところ、原島はねじ六に改めて依頼する。
「以前の価格で良いので、増産した上で、できる限り早く納品してくれませんか?」と原島は依頼していた。そこで、原島はトーメイテックで作られていた製品の見本を持参してきていた。原島は、その場でねじを落としてしまう。原島が帰った後、ねじを拾ったねじ六の社長・三沢逸郎は、そのねじを引張試験機にかける。すると、そのねじは大幅にあるべき強度を下回っていたのだった。
経理の新田雄介は、接待費を経費として認められるかどうかの押し問答で、原島を激怒させてしまう。結果、経理部に抗議文が届き、新田は注意を受けた。そのことを恨みに思っていた新田は、原島への復讐心を抱いていた。
そんな中、コストとして割高となるにも関わらず、原島がねじの仕入先をトーメイテックからねじ六に変更したことについて、新田は疑問に思う。新田は、これ幸いと経理課長・加茂田久司に報告し、加茂田は原島に問いただす。原島は、「役員会にでも報告したらどうだ」という。
加茂田もその態度に怒りを覚え、役員会で報告するが、宮野和広社長は「原島に任せたんだから、それでいい」と、意外なことを口にするのだった。そのこともあり、加茂田は新田に「この件について、金輪際、口を挟むな」と警告する。だが、根に持つ新田は、独自で調査を続ける。そして、坂戸がパワハラのみで「隔離」されている状況に疑問をもつようになる。
新田は、トーメイテックを訪れて事情を聞こうとするが、新たな情報は得られなかった。その帰り、新田は原島に呼び止められる。新田はごまかそうとするが、その件は加茂田に伝わり、新田は強い叱責を受ける。その後、飯山部長に新田は呼び出され、「大阪で営業をやってもらう」と通告されるのだった。
営業部次長だった佐野健一郎は、北川営業部長の弱みを製造部長・稲葉要にリークしていたことが発覚し、北川により「窓際」であるカスタマー室の室長へと追いやられていた。
カスタマー室に、折りたたみ式簡易椅子について、「椅子の座面を留めたねじが破損している」とのクレームが複数上がってくる。過去3年で座面が外れたクレームは7件あった。
佐野は、破損した椅子のうち1つを回収し、調査を実施する。企画開発室・奈倉明は、「設計に問題がなければ、素材かな」と、ねじの強度に問題があったのではないか、と疑う。奈倉は、詳細な調査を行い、破断したのはねじの強度不足が原因であると断定するのだった。そして、製造年度を調べると、強度不足が認められるねじは、3年ほど前に集中していた。
ねじの製造元を調べると、原島がねじ六に変更し、その前はトーメイテックであったことが判明する。トーメイテックが製造していたねじが不良品であるとすれば、折りたたみ椅子のリコールとなる。
佐野は、高崎工場へと出向き、トーメイテックのねじの在庫を手に入れ、検査を実施する。結果、ほぼ全てのねじが強度不足であった。さらには、トーメイテック製のねじの中には、合金でできた特殊ねじがあり、それは列車・航空機の椅子に使われていた。それら全ての製品をリコールしたとなれば、東京建電機は倒産の危機に瀕することになる。
佐野は、「ねじ強度不足による製品リコールの件」とのタイトルで、北川営業部長、稲葉製造部長、宮野和広社長たちに書状を送っていた。北川は、佐野と話を行う。
北川は、ねじの強度不足の件を認める。その上で、「もし表沙汰になれば、会社は倒産し、俺たちは路頭に迷う」と、公表することをやめるよう説得する。だが、佐野は「坂戸だけでなく、北川部長にも管理責任がある・・・告発文を引っ込めるとすれば、辞任が条件です」と言い、辞職を迫るのだった。北川は、「この件について、俺には見守る義務がある」と言い、辞任を拒否するのだった。
北川は半年前、八角に「規格外の部品が使われている。だから安いんだ」と、坂戸の不正を指摘されていた。北川は坂戸に事実関係を確認し、宮野社長に報告。結果、宮野社長は「本件、隠蔽せよ」と、事実を隠すことを指示したのだった。結果、八角へのパワハラが原因として、坂戸は人事部付けとなったのだった。
佐野は、宮野が隠蔽を指示したことを知って驚く。そして、もはや公表する気力を奪われてしまうのだった。北川は、佐野を丸め込めたと安堵した。そんな北川に、八角は「納得せざるを得ない、本当にそれしかないと思っているのか?」と問いかける。
だが、2日後、北川は村西京助副社長から呼び出される。宮野は、東京建電の社員から社長に上り詰めた人物であったが、村西副社長は、親会社であるソニックから出向してきた人物だった。村西のもとへも告発文が届けられ、彼は「ソニックに報告しなければならない」と言い、もはや隠蔽し続けることはできなくなった。
村西副社長は、御前会議でねじの強度偽装問題をソニック社長・徳山郁夫に報告する。すぐさま、ソニックの調査チームが派遣され、徳山社長は発表前に状況把握を行うことを指示する。これを受け、村西は東京建電・宮野社長に対し、「これはすでにソニックのマターです」と通告するのだった。
村西は、告発文の差出人である佐野を呼んで事情を確認する。だが、告発文を書いたのは別人であると判明する。佐野は、八角が告発文を村西に送ったのではないか、と推察し、村西は八角に事情を聞く。
「君、なにか知ってるんじゃないのか?」と尋ねる村西に、八角は「あえて言えば、体質かな。だから繰り返すんだ」と言う。そして、村西に製造部に勤務していた増谷寛二に会うよう言うのだった。
既に定年退職していた増谷は勤務時、北川に対して「強度不足の製品を、データ偽装して供給する」ことを提案していたのだった。当時、その不正についても八角は気づいており、増谷にそのことを指摘していたのだった。さらに、いまやソニックの副社長でかつての東京建電・営業課長の梨田もまた、その不正を知りながら、目を瞑っていたのだった。
御前会議が再び開かれ、徳山は不正を公表しないこととすると決定する。株主総会で宮野は退任し、村西は会長就任する見込みとなっていた。村西に対し、八角は「今、東京建電を変えるには、メガトン級の爆弾が必要だ」と言う。その言葉の通り、強度不足のねじが使われていた問題、リコール隠しは、マスコミにリークされることとなった。
宮野は謝罪会見を開き、マスコミに厳しい追求を受けることとなった。また、社外調査委員会が設置され、そのメンバーである加瀬孝毅弁護士は、坂戸と厳しく追及していた。坂戸もまた、賠償責任を問われ、実家の商店までも奪われそうになっていた。
そんな中、不正の話を持ち出したのは、坂戸なのか、それともトーメイテック江木社長なのか、という問題が争点となっていた。互いに、「言い出したのは相手」と主張していたのだった。
八角は、不正を主導したのか調査を行う。坂戸は「北川部長に、トーメイテックを紹介された」と言い、北川は「宮野社長に紹介された」のだという。北川はさらに、「宮野社長が、坂戸がノルマに追い詰められている。その状態ならば、不正に手を染めるのではないか」との情報を流したのではないか考えていた。
八角はさらに、社長付き運転手・佐川昌彦に会い、話を聞く。そこで、宮野社長とトーメイテック江木社長に付き合いがあったことを知る。そこで八角は、加瀬弁護士に「私に考えがあります」と言い、ある作戦について話をするのだった。
八角と加瀬は、江木を呼び出す。そして、「宮野社長のパソコンに、作成途中のメールが見つかった」と言い、その文面を見せるのだった。江木は観念し、「私じゃない。宮野さんの指示だったんだ」と白状する。全てを自白した江木に、八角は「このメールは俺が作った」と明かす。抗議する江木に、八角は「データ偽装した奴が、メール偽装に抗議かい」と言い放つのだった。
東京建電は、強度偽装の舞台となった営業第一課の事業のみを遺し、他業務は新設会社へと移された。宮野は特別背任容疑で告発され、トーメイテックは破産、江木は個人破産を申し立てた。個人への損害賠償を免れた坂戸は、懲戒解雇処分となった。
八角は、強度偽装の事実を知り、偽装の告発に踏み切った。万年係長として、東京建電に残った八角は、「どんな道にも、将来を開く扉はきっとあるはずだ」と思うのだった。