登場人物
山科笛美:フリーター、安楽椅子探偵を呼ぶ笛を拾った人物
東山恵司:北署刑事、笛美の幼なじみ
天王寺満斗:劇団・超扇情シアター座長
長田吹子:制作チーフ
守口三咲:女優
平野友芳:男優
田辺空彦:男優兼スタッフ
緑橋登:男優
駒川聖実:女優
中崎楽太:男優・双子の兄
中崎安夫:演出助手・双子の弟
金山武寛:舞台監督
植田照信:照明
江坂紗夜:衣装
出題編
フリーターの山科笛美は、「困った時に、安楽椅子探偵を一度だけ呼べる」という笛を拾う。そこから、安楽椅子探偵に興味を持った笛美は、安楽椅子探偵をモチーフにした舞台公演を行っている劇団・超扇情シアターの座長、天王寺満斗に話を聴きに行く。
安楽椅子探偵を異常なほど追い求める天王寺は、笛を持つ笛美に「ぜひ笛を吹いてくれ」と頼まれるが、困った時、しかも一度しか呼べないため、彼女は断る。そこで、天王寺は笛美を雇って舞台公演を手伝ってもらい、安楽椅子探偵を呼ぶ機会を待つことにしたのだった。
劇団・超扇情シアターは、天王寺、俳優・緑橋登、女優・駒川聖実の3人で旗揚げした。その後、安楽椅子探偵の舞台を行うようになり、注目されるようになった。人気が出始めたその舞台で、「安楽椅子探偵 役」を演じる中崎楽太が人気となり、今まで看板俳優・女優だった緑橋、駒川らは面白くなかった。人気に伴い、楽太は増長した態度をとるようにもなっていった。
『安楽椅子探偵 3』の最終公演で、安楽椅子探偵の衣装であるマスク、マントをつけた俳優が、舞台上で死亡する。その人物は、楽太ではなく双子の弟・安夫だった。椅子には、即効性の神経毒・ラニシンが塗られた針が仕込まれており、椅子に座って登場する際、その針が刺さって安夫は死亡したのだった。
一方、兄・楽太がいなくなっていた。間もなく、劇団の使用していた事務所の隣部屋にある倉庫のロッカーから、頭部を殴られて死亡していた楽太が発見される。
双子の兄弟が、相次いで死亡した事件を、笛美の幼なじみの刑事・東山恵司が担当する。捜査の中で、安楽椅子探偵が使用する本来の椅子が、黒ペンキで汚されていたことが明らかになる。そのため、急遽、別の椅子が使用されたのだった。
黒ペンキで汚された椅子では、硬質な素材であったため、針を仕込むことができなかった。そのため、犯人がわざと椅子を汚したと考えられた。黒ペンキで汚された椅子を発見されたのは、公演当日の朝だった。その前日の夜には、劇場は施錠されており、侵入は不可能だった。
そのため、最後まで劇場に残った人物が犯人ではないか、と東山刑事は考える。その人物は、天王寺だった。さらに、天王寺のデスクから、神経毒・ラニシンの瓶が発見された。
ラニシンは、安夫名義でネット上のサイトから購入されていたが、東山刑事は「座長の立場を利用して、安夫に買わせたのではないか」と推理する。こうしたことから、東山刑事は、天王寺を逮捕しようとする。
だが、無罪を主張する天王寺は、笛美から安楽椅子探偵を呼ぶ笛を奪い、勝手に吹いてしまう。
解決編
笛が吹かれて、安楽椅子探偵が登場する。いつものように、安楽椅子探偵は登場人物たちを推理するためだけに存在する異空間へと連れ出す。
安楽椅子探偵は、犯人は椅子に仕掛けを行い、時限式にペンキが椅子にかけられるようにしたのであり、天王寺を犯人と断定することはできない、と指摘する。その仕掛けとは、舞台で使うグラスにペンキを入れ、その下にドライアイスを置いて、ドライアイスが溶けたらグラスが傾いて椅子が汚れる、というものだった。
犯人は、東山の推理のように、椅子を汚すことによって、別の椅子を使わせ、針を仕込むことができるようにしたのだった。
犯人は、ペンキ入りのグラスを見咎められないように運ぶため、舞台で使ったカゴに入れたのだと考えられた。そのカゴを移動できたのは、舞台でカゴを使っていた俳優・女優だった。ただし、緑橋登は早着替えのため、カゴを衣装の江坂紗夜にあずけていた。また、田辺空彦は守口三咲に片付けてもらったため、該当しなかった。
そのため、この条件により絞られ、以下の4人が容疑者となる。
守口三咲:女優
駒川聖実:女優
平野友芳:男優
江坂紗夜:衣装
さらに、トリックを使わないでペンキをこぼせたことから、座長・天王寺も容疑者圏内として残る。
次に、楽太殺害について安楽椅子探偵は解説を行う。事件現場では、事件前後で異なっている点が2つあった。
1つ目:雑誌の並び順が以前と異なっていた(事件前は、2015年7~12月→2016年1~6月の順番であったが、年数関係なく1~12月の順番になっていた)。
2つ目:電気式時計が7分遅れていた。
この点から、犯人は棚の後ろのコンセントを使うため、雑誌をどかし、電気式時計のプラグを抜いたと考えられた。コンセントを使ったのは、掃除機を使うためだった。
犯人は、まず楽太の後頭部を殴り、その後、もう一度前頭部を殴って死亡させた。後頭部を殴った後、楽太に掴みかかられて、揉み合いとなっているときに楽太が身につけていた、安楽椅子探偵の装飾品の一つであるネックレスの玉が周囲に散らばってしまったのだった。
その玉を拾い集めるため、犯人は掃除機を使ったのだった。ところが、その日、コードレスの掃除機が届いており、わざわざコンセントを使う必要はなかった。そのことを長田吹子から聞かされ、男優・女優、座長、笛美たちは、知っていた。
そのため、コードレス掃除機の存在を知らなかった、ということが犯人の条件となる。この条件には、
江坂紗夜:衣装
金山武寛:舞台監督
植田照信:照明
らが当てはまる。
よって、
条件1:ペンキを椅子のこぼすトリックを仕掛けることができた人物
条件2:コードレス掃除機の存在を知らなかった人物
これらの条件を2つとも満たすのは、江坂紗夜であり、彼女が犯人に他ならなかった。
紗夜は、天王寺の異母兄妹だった。彼女は、両親が離婚して父親と会う機会が減ってしまい、会っても安楽椅子探偵のことばかり話すため、安楽椅子探偵を憎むようになっていった。そんな彼女は、安楽椅子探偵を「単なる都市伝説」にするため、自ら安楽椅子探偵の脚本を書くようになる。バカバカしい内容にしたつもりが、その舞台が予想に反して人気が出てしまう。
苛立ちを募らせる彼女は、「安楽椅子探偵を舞台上で殺す」ことを思いつく。そのため、まず安夫に色仕掛けで近づいた紗夜は、安夫に毒物・ラニシンを購入させる。そして、ペンキをこぼすトリックで椅子を汚し、別の椅子に毒針を仕掛けた。
ラニシンのことを知っている安夫を殺害するため、紗夜は安夫を倉庫に呼び出した。ところが、その話を聞いていた楽太が、面白半分に倉庫にやってきてしまう。タオルを首にかけていたため、ネックレスが見えなかった。そのため、紗夜は誤って楽太を殴りつけてしまったのだった。
安楽椅子探偵を演じる楽太が死亡したため、紗夜は安夫を代役に立て、その安夫を舞台上で殺害しようと考える。そのため、ネックレスの玉を拾い集める必要があったのだった。掃除機で玉を拾い集めた紗夜は、ネックレスを修復して安夫のもとへと向かう。
紗夜は安夫に「楽太がいなくなったの。あなたが安楽椅子探偵を演じるべきよ。あなたならできる」と言い、安楽椅子探偵の格好をさせるのだった。安夫は、椅子に座った瞬間、針が刺さって死亡した。
紗夜は、東山刑事によって逮捕される。天王寺は安楽椅子探偵が事件解決をした、と言うのだが、他の人物たちは、安楽椅子探偵の存在が分からない様子だった。天王寺に対し、安楽椅子探偵は人差し指を口元に持っていって、合図を送った後に姿を消すのだった。