あらすじ
一糸まとわぬ姿の女性がステージに上がり、その様子を観客が客席から見ていた。ステージ上に置かれた銀のプレートの蓋をとると、中からは大きなクモが出現し、女性が踏みつぶす。その様子を、アダムが苦渋に満ちた表情で観ていた。
大学で歴史を教える講師であるアダムは、経済的には恵まれていたが、満たされない空疎な日々を暮らしていた。しばらく会っていなかった母親からの「また会いましょう」という留守番電話のメッセージを聞いた後、彼は簡素な部屋に帰る。彼にはメアリーという恋人がいた。
アダムは、大学で「独裁者による支配」について講義を行っていた。そんな彼はある日、同僚から『道は開かれる』というタイトルの映画を観るように勧められる。「映画に興味はない」と言っていた彼だったが、観ることを約束し、帰りにレンタルショップで借りるのだった。
メアリーの「一緒に寝ましょう」という誘いを断り、アダムはその映画を観る。観終わった後、メアリーを抱こうとするアダムだったが、寝起きで驚いたメアリーはそのまま帰ってしまう。しばらく寝ていると、映画に自分そっくりの俳優が出演していることに気づき、気になってその俳優のことを調べる。その俳優は、「ダニエル・センクレア」という芸名の俳優であり、事務所のホームページに掲載された写真と、アダムは自分の持っていた右半分の切り取られた写真を見比べ、やはりソックリであると思う。
事務所に向かうと、そこで守衛に声をかけられる。「アンソニー、久しぶりだな。半年ぶりくらいだな」などと守衛は言い、アダムはとっさに「郵便物をとりにきた」とその場を取り繕おうとする。すると守衛は、届いていた「親展」と判を押された封書を渡すのだった。
「ダニエル・センクレア」の本名がアンソニーだと分かり、さらには封書に書かれた住所にアダムは向かう。さらには、電話番号を調べ、その家に電話をかける。すると、電話に出たのは女性だった。アダムのことをアンソニーだと思っている女性は、なんのいたずらなのか、と戸惑う。その後、アダムは再びアンソニーに電話をかけ、「映画を観て、君ソックリなことに気づいた。会ってみたい」とアダムは言うのだが、アンソニーは取り合わない。
電話をしていたアンソニーに、妊娠中の妻・ヘレンは、彼の浮気を疑う。アンソニーには、浮気をしていた過去があった。ヘレンは、電話の着信履歴から、話し相手の電話番号を調べようとするのだが、履歴は残されていなかった。一方、アンソニーはアダムのことが気になり、「会おう」とアダムに電話をかける。
ヘレンは、アダムの勤務する大学へと向かう。そこには、夫とソックリな男性がいるのだが、自分のことを知らないようなそぶりをしていた。身重の自分に対して、「何ヶ月ですか?」と訊かれ、ヘレンは「6ヶ月です」と答える。アダムが席を立った後、ヘレンは夫に電話をかけ、アンソニーと会話をする。その後、帰宅したヘレンは大学でのことなど覚えていないかのようなアンソニーにショックを覚え、「知ってるくせに」と言って涙を流す。
アダムは、ホテルでアンソニーと会う。瓜二つであり、なおかつ生年月日、左胸の下にある傷まで一緒だった。アダムはショックを覚え、封筒をアンソニーに返却した上、ふらふらとした足取りでその場を出ていく。茫然としながら車を運転していると、アンソニーの乗ったバイクが追い越していった。
アダムは、自分そっくりな男の存在について、母親・キャロラインと話をする。すると、「そんな話はしないで。あなたは私の一人息子よ。そんな三文役者のことなど忘れなさい」などと言われる。その後、街には巨大なクモが現れ、闊歩するのだった。
アンソニーは、アダムの恋人・メアリーのことを調べ、尾行する。メアリーのことを気に入ったアンソニーは、アダムに「俺の妻と寝ただろ!」と言いがかりをつけ、アダムのふりをしてメアリーとデートさせるよう迫る。アダムは、渋々承知し、アンソニーはアダムの服、車を借りてメアリーとデートしに行く。
一方、アダムはアンソニーの部屋に侵入する。管理人がアダムに声をかけ、「鍵をなくしてしまった」という彼の代わりに鍵を開けて、中に入れてくれた。その管理人は、エレベーターの中で、「あの体験が忘れられない」「またあの部屋に行きたいのですが、鍵が送られてこなかった」などと言う。アダムは、アンソニーのふりをして「なんとかする」などと応じる。
アダムは、アンソニーの部屋で着替え、アンソニーのふりをして妻を待っていた。しばらくすると、ヘレンが帰ってきた。しばらくぎこちなく会話をするヘレンは、彼をベッドに誘う。そして、「今日、学校は?」などと訊ねるのだった。
一方、アンソニーはメアリーとデートをして楽しんでいた。だが、性行為の途中、メアリーはアンソニーの「指輪の痕」を発見し、激怒して「あなたは誰?」「結婚しているじゃない!」などと激怒する。
アダムは、眠れぬ夜を過ごし、そこに同じく眠れないヘレンがやってきた。泣いていたアダムは、「すまなかった」と謝る。そんな彼をヘレンは慰め、抱きしめて彼の上に跨るのだった。
アンソニーは、起こったメアリーを乗せて車を運転していた。ほどなくして2人は口論になり、アンソニーは自損事故を起こし、2人は死亡してしまう。
翌朝、ヘレンがシャワーを浴びている最中、アダムはアンソニーのジャケットを着る。そのポケットの中には、かつて見たアンソニーの封筒を発見する。その中には、「鍵」が入っていた。その鍵を手にしたアダムは、ヘレンに「今夜の予定は?今日は遅くなる」と言うが、ヘレンの返答はなかった。ヘレンの部屋へと向かうと、そこにはヘレンではなく巨大なクモが存在しているだけだった。
解説
アンソニーは、アダムの「もう一人の自分」だった。かつて役者を目指していたのだが、母親の反対もあり、役者ではなく大学の講師となることを選んだのだった。
アダムは、妻ヘレンと結婚していたのだが、過去に浮気をしていた。満たされず、どこか空疎な日々の中で、役者として活動し、さらには妻以外の女性と浮気する「アンソニー」という別人格が現れるようになっていたのだった。アンソニーは、アダムがなりたかった俳優になり、女性との浮気を楽しみ、好きだったバイクを乗り回す人物像である。
もちろん、ヘレンはアンソニーなどの存在は知らず、ヘレンに対して見知らぬ女性かのように接するアダムに戸惑うのだった。だが、アダムは妊娠中のヘレンのもとに戻る。その過程の中で、アダムは「浮気をしたい」と望むアンソニーを、交通事故という形でかつての恋人とともに、脳内で殺したのだった。
彼を支配する存在として、母親や妻などの女性がいる。そんな彼女たち女性を、「クモ」のような存在であるとアダムは感じていた。アダムは「鍵」を手にしたことで、再び浮気の虫がうずきはじめる。再び浮気心が出てきたところ、ヘレンは彼にとって「クモ」のような存在になるのだった。