「鍵」前半部分(ネタバレなし)
写真家の清水譲治(江口洋介)は、悪夢にうなされることが毎晩続いていた。妊娠中の妻は、「またうなされていたわよ…一度、お医者さんに診てもらったら?」と提案する。清水は「仕事が立て込んで疲れているだけ」と言うのだが、「もうすぐこの子も生まれるし、家族のためだと思って」と受診を勧める。
清水は受診し、検査の結果「特に異常はないようですね。どんな悪夢を見るんですか?」と医師に夢の内容を質問されるが、「それが、思い出せないんです」と言う。
医師は、「過去のストレス、自分でも忘れているような、嫌な記憶、封印された記憶が悪夢となっているのでは。人は嫌な記憶は封印しようとする。まるで鍵をかけるかのようにね」と言う。
清水は、仕事場で若い頃に着ていたスタジャンを見つける。嬉しくなって思わずそのスタジャンを着てタクシーに乗ると、ポケットに「203」とタグのついた一本の鍵が入っていることに気づく。
その鍵は、以前に事務所として使っていた部屋のものだった。今は物置きと貸しているその部屋を男は訪れる。部屋にあった写真を手にとり、アシスタントとを厳しく叱責し、クビにしたことを思い出す。ソファに座っていると、そこにもう一本の鍵を見つける。
記憶の扉を開く「鍵」を探す清水。悪夢から解放される日は果たして彼に訪れるのでしょうか。
「鍵」後半部分(ネタバレあり、結末まで)
自宅に帰ると、妻から「三村さんからハガキがきてるわよ」と言われる。三村は元同僚であり、退職して実家に戻るのだという。
清水は写真家になる前、生活費を稼ぐために豊国産業という会社に勤務していた。三村はその時の同僚であった。清水は会社を訪れ、そこでまだ自分のロッカーが残されていたことに驚く。
ソファにあった鍵でロッカーを開けると、中にはネックレスが入っていた。元恋人と別れた時に突き返されたものだった。「俺は一体、何人の人を傷つけたんだ…」と清水は思い、ふと見るとロッカーの中にも鍵が入っていた。
その鍵は専門学校生時代に借りていた安アパートの部屋の鍵だった。清水はその部屋を訪れ、そこで高校時代に彼女から借りていた本を見つける。その本に挟んであった鍵を見つける。その鍵は高校のロッカーの鍵だった。
廃校になっている高校に戻り、ロッカーを開ける。するとそこには古びたカメラと高校時代に付き合っていた彼女の写真が入っていた。
その写真を見ていると、強烈な吐き気が込み上げる。写真には、両親を幼くして亡くして引き取られた祖母の家が写っていた。
祖母の家を訪れ、植木鉢の下に隠してあった鍵で中に入る。そこで、病気の祖母をろくに看病もせずにカメラにのめり込んでいた高校時代のことを思い出す。
「ばあちゃん、ごめん…」とつぶやき、清水は仏壇の掃除を行う。「ずっと心に引っかかっていたのは、このことだったのか」と清水は思う。
落ち着いたら墓参りに行こうと思いつつ、清水は家を出ようとするが、そこで畳に古い血痕があるのに気づく。そこで、彼女から「妊娠した」と告げられたことを思い出す。
腹部から血を流して横たわる彼女の姿がフラッシュバックとなって蘇り、口論の末に「俺が殺したのか…」と愕然とする。後ずさって戸棚にぶつかると、そこにはまた古めかしい鍵が現れる。
物入れの扉の鍵を開け、清水は恐る恐る中を見て絶叫した…ところで目を覚ます。夢かと思って安心した清水だったが、パジャマの胸ポケットには祖母の家にあった古めかしい鍵が入っていた。清水はその鍵を見て呆然とする。
ついに真相に辿り着いた清水。
会社や学校の、自分で使用していたロッカーがそのままだったり、住んでいた古アパートの部屋がそのままだったり、空き家となっている祖母の家の水道がそのまま使えたりと、おそらく夢の中で清水は各所を巡ったのではと考えられます。
しかし、最後の鍵は彼の手元にあり、高校時代の彼女を殺してしまったのは事実かもしれません。
「鍵」制作情報
・原作 筒井康隆(鍵)
・脚本 高山直也
・演出 H.OGURA