「火の粉」(雫井脩介 ドラマ原作)あらすじ・ネタバレ

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簡単なあらすじ

1) 梶間勲 裁判官は、的場一家を殺害した罪で起訴された武内真伍を、無罪とする判決を下した。武内は「自分も被害者」であると主張しており、背中には金属バットで殴られた痕があった。それを偽装だと主張する検察側の立証について、勲は不十分と判断したのだった。後日、武内は勲の住む家の隣に引っ越してくる。

2) 武内は、紳士然としており、なおかつ物腰柔らかだった。勲の家族に、武内は気に入られるが、長男・俊郎の妻・雪見だけは、武内に疑いの目を持っていた。武内がやってきた後、介護を必要として勲の妻・尋恵に面倒をかけていた義母・曜子がお粥を喉に詰まらせて死亡する。そして雪見が、浮気や娘・まどかへの虐待を疑われ、家を追い出されるといったことが起こった。

3) 雪見は、武内に妹(的場久美子)夫婦・甥を殺害されたという池本亨に話を聞く。武内は、自分に好意を持つ者に尽くすが、疑いを抱いたり拒否したりする者は、徹底的に排除するのだという。雪見は、武内に疑いの目を向けたため、罠にかけられ、”排除”されてしまったのだった。

4) 勲は、武内の裁判を担当した検事・野見山司に相談し、武内を古くから知る鳥越勝彦に話を聞きに行く。武内の周囲では様々な”事件”が起こり、自傷癖などがあったことを知らされる。勲は、雪見が主張するように、武内の「本性」が恐ろしいものであると信じるようになる。そして、勲は雪見とともに殺人現場を訪れ、武内が自らの体をどのように傷つけて偽装工作を行ったか(注釈:方法については、下記の詳しいあらすじを参照)に気づく。

5) 武内は、自分のことを信じる俊郎、その母・尋恵、まどかを連れて別荘に招く。尋恵は、武内の本性に気づきつつあったが、俊郎に「友人の別荘」と言われ、半ば騙されて連れてこられてしまったのだった。武内は、池本を殺害しており、その遺体を別荘に隠していた。その遺体を、尋恵は見つけてしまう。

6) 武内は、まどかや尋恵が自分の歓待を受けないことに腹を立て、本性を表す。俊郎を襲い、次に尋恵に襲いかかろうとする。そんな中、勲や雪見が刑事を連れてやってくる。だが、武内は刑事が入り込む前に、ログハウスにロックをかける。勲は、ロックを外して刑事を招き入れる。だが、その隙に武内は俊郎にとどめを刺そうとしていた。

7) 怒りを覚えた勲は、武内の頭部に何度となく大理石の灰皿を打ち下ろし、殺害してしまう。逮捕・起訴された勲は、過剰防衛による傷害致死で懲役1年6ヶ月を言い渡される。傍聴席には、尋恵、俊郎、雪見、まどかたちがいて、元気づけられる。勲は、かけがえのない家族の命を「かろうじて失わずに済んだ」と思う。

起:武内の無罪判決

武内真伍は、的場夫妻(洋輔・久美子)およびその息子・健太を殺害したとして逮捕される。武内は、友人として的場夫妻と付き合いがあったが、「プレゼントしたネクタイを使っていない」という理由で、衝動的に夫婦を金属バットで撲殺し、息子はネクタイで絞殺したとして、検事・野見山司によって起訴された。

だが、武内は自らも、肩甲骨が亀裂骨折するほど金属バットで背部を殴打されており、「自分も犯人に襲われた被害者」であると無罪を主張していた。一方、検察側は「武内の怪我は、偽装工作で、自らつけたもの」と反論していた。武内犯人説が有力かと思われる中、東京地裁・梶間勲 裁判官は、検察側の立証が不十分として、武内を無罪とする判決を下した。

検察側は控訴するも、武内の犯罪を立証するための証拠を集めることができず、武内の無罪は確定してしまう。被害者・久美子の兄である池本亨は、判決に納得がいかず、勲に食ってかかる。その後、勲は裁判官を辞職し、多摩文化大学の法学部教授として就任することになった。

承:武内との再会

オープンキャンパスで講義を行っていたところ、武内が聴講しにやってきていた。勲は、武内に「学生たちの前で、冤罪によって逮捕された経験を語って欲しい」と依頼。快く引き受けた武内は、涙ながらに自らの経験を語り、勲は武内にその苦労を労う。「自分の理解者」と考えた武内は、勲に近づこうとするようになる。

勲は、多摩野にある住宅に住んでいた。そこで、妻・尋恵、長男夫婦(俊郎、雪見)、孫・まどかとともに住んでいた。そんな彼らの家の隣に、武内が引っ越してくる。勲は驚くが、自ら下した判決のこともあり、色眼鏡で見ないようにしようとし、普通の隣人として接しようとする。

そんな中、武内の飼っていた番犬が塀を乗り越え、梶間家に侵入する。番犬は、まどかを襲おうとするが、雪見は自らの子供を身を挺して守ろうとする。直後、武内が現れて番犬は殺害される。雪見は、噛まれたものの軽症で済んだ。

武内は、平身低頭の姿勢で謝罪し、30万円を見舞金として梶間家に渡す。その対処や物腰も含め、梶間家の人々は武内に好意的であったが、「番犬が入ってきやすいように、段差が作られていた」ということを見逃さず、雪見だけは、武内に対して疑いを抱くようになる。

そんな中、尋恵は義母・曜子の介護の日々に明け暮れていた。感謝の言葉一つなく、曜子の実娘・満喜子と比較され、辛く当たられることもあり、尋恵は過労で入院してしまう。その様子を見かねた武内は、「介護を手伝いましょうか?」と申し出る。

武内は、梶間家に出入りして介護を行うようになる。そんなある日、食事中に大量のお粥が気管内に入り、曜子は救急搬送される。だが、病院に運ばれた際には心肺停止状態であり、そのまま曜子は死亡する。食事に介助を行っていた満喜子は、自分のせいで母が死んだ、と嘆き悲しむ。お粥の誤嚥による窒息死として診断され、誰も彼女の死に疑いを挟む者はいなかった。

転:追放

曜子の葬儀が執り行われた後、納骨が行われることになる。だが、その墓に水子地蔵が置かれ、墓誌にも「あすか」という名前が記されていた。「あすか」とは、雪見が堕胎した子供であり、そう密かに名づけていたのだった。「あすか」は、雪見と夫・俊郎が結婚する前の子供であり、いい年してフリーターを続ける俊郎とは結婚できないと考え、雪見は誰にも明かさず堕胎していた。

雪見は、慌てて実家に行く。自分の部屋には、「あすか」の代わりとして買った子供の人形があり、秘密が書かれたメモがなくなっており、それを盗んだ人物が悪意を持って水子地蔵などを用意したと考えられた。

雪見は、梶間家の人々にその秘密を打ち明ける。俊郎は、「あすか」を雪見と交際していた中野佳樹という男の子供ではないか、と疑っていた。だが、雪見は「中野には付きまとわれていただけ」と否定する。さらに、雪見は中野が今回の水子地蔵などを用意した人物ではないか、と考えるようになる。

その後、まどかが夜になかなか寝ず、言うことを聞かない娘に雪見は、次第に手を挙げるようになる。その様子を武内に目撃され、雪見はばつが悪くなる。そんなある日、匿名で児童相談所に「雪見がまどかに虐待している」との通報があったことを尋恵は知り、驚く。

雪見は、まどかを公園で遊ばせていたところ、中野がやってきて驚く。中野は、「雪見に呼び出された」と手紙を見せる。その手紙は、雪見の筆跡であったが、彼女は書いた覚えがなかった。その2人が話をしている様子を俊郎は見かけ、声をかける。彼は、武内にベンツを借りて乗せてもらい、公園付近で偶然、雪見を見かけたのだという。「雪見が中野を手紙で呼び出した」と信じる俊郎は、ますます雪見と中野の仲を疑い、夫婦に溝ができてしまう。

雪見は、友人にまどかを預け、中野に会いに行く。「実家に侵入したり、手紙を自ら用意したことを認めて」と迫るが、彼はそんなことはしていない、と否定する。一方、まどかが友人の子供に乱暴に腕を引っ張ってしまったと知る。さらに、まどかが乱暴に「あすか」の人形を振り回している姿を見て、雪見はまどかを叩いてしまう。

その様子を見ていた尋恵は、雪見がまどかを虐待していると確信してしまう。尋恵は、武内にまどかの脚に「アザ」があると言われ、それを見ていた。さらに、児童相談所に通報があったということもあり、これらが”証拠”となり、雪見が虐待していると思ったのだった。

まどかへの虐待や、中野と密会しているといった俊郎の疑いもあり、雪見は梶間家にいられなくなる。雪見は、友人宅に泊まらせてもらうこととなった。

そんな中、雪見は池本夫妻(亨・杏子)から武内の恐ろしさについて話を聞く。池本亨は、妹夫婦・甥を武内に殺害されたと確信していた。雪見は池本に、「武内は、自分に好意的な人物には尽くすが、自らに疑いを向ける者は徹底的に排除しようとする」と聞かされる。水子地蔵の件や、児童相談所への通報、中野に手紙を書いたのも、武内の仕業である、と池本は断言する。

さらに、まどかが夜に寝なくなったのも、「武内が何か飲み物(後に雪見は、武内からまどかがヤクルトをもらっていたと尋恵に聞く)にカフェインを加えて、眠れなくさせたんだ」と指摘する。さらに、まどかが人形を乱暴に扱っていたのも、武内が人形を乱暴に扱っている様子を見せ、真似するように仕向けていたのではないか、と池本は話す。

元から武内に疑いを持っていた雪見は、池本の話を信じ、勲に話をする。だが、自ら武内に無罪判決を下した勲は、話を信じようとはしなかった。池本夫妻を、梶間家に連れて行って話をしてもらうことについては勲は許可したが、当日、勲はあえて不在にしていた。

雪見は、池本を梶間家に連れて行き、話をする。だが、武内のことを信じ、証拠もない話を俊郎や尋恵は信じようとしない。逆に、俊郎の発案で招かれた武内に、「むしろ、私を犯人に仕立てあげようとする、あなたたちの仕業ではないか」と反論され、雪見たちは梶間家での信用を得ることはできなかった。さらには、池本が武内に掴みかかってしようとしてしまい、その惨憺たる結果に雪見は池本たちとも距離を置く。

結:本性

勲は、雪見の話などから、武内への疑いを深めていく。野見山検事に相談を行うが、要領を得ない内容に、「あなたは、今まで裁判官として裁判の風上から傍観していた。だが、今、武内という”火の粉”が降りかかってきたので、慌てているんだ」と指摘されてしまう。

だが、野見山検事は、「武内の母親やその恋人の山岳事故に、武内が関わっているのではないかといった疑いがある」といったことや、武内の過去を知る旧友・鳥越勝彦の連絡先を教えてもらう。

一方、武内の周辺では、さらに事件が立て続けに起こっていた。武内の事件を担当した関孝之助弁護士が殺害され、さらには尋恵、武内が襲撃される。武内は、池本に襲撃されたと証言する。その襲撃事件から後、池本は行方不明となっていた。

勲は、鳥越から武内の生い立ちを知る。母親から虐待されて育ったことや、自傷癖があること、以前から背中を金属バットで殴られたような傷を、自らつけていたことなどを知る。そして、自分への理解者へは尽くすが、少しでも拒否されるようなことがあれば、怒り狂って暴力的になることなどを知る。その話を聞き、勲は自らの判決が誤りであったと思うようになる。

雪見は、池本杏子から夫・亨が帰ってきていない、と知らされる。亨は、関弁護士の死を知り、武内が次なる犠牲者を出さぬよう、武内を殺害しに行ったという。だが、亨は帰って来ず、杏子は「返り討ちに遭ってしまったのではないか」と考えていた。

雪見も、杏子の話には半信半疑であったが、まどかの「隣のおじちゃんが、どこかのおじちゃんを車に乗せていた」という話を聞き、武内が池本を殺害したのだという説を信じるようになる。

雪見は、遺体を運んで捨てに行く時間もなければ、警察の目もあるため、武内はまだ遺体を車のトランクに入れているのではないか、と考えていた。祖母の四十九日の法要があり、そこで武内に車を貸してもらえないか、と訊いてみてはどうか、と雪見は提案する。同じく武内を疑う勲は、雪見と尋恵に訊きに行くように言う。だが、武内はあっさりと車を貸し、トランクに遺体はなかった。同じく、梶間家の車のトランクにも遺体はなかった。

後日、雪見は、まどかが「お庭の車に乗せて…」と言っていたことから、池本の遺体を手押し車に乗せ、庭の一角に埋めたのではないか、と考える。「小旅行に行ってきます」と言う武内を、雪見は引き止める。周囲を張っていた刑事を呼び寄せ、トランクを開けさせようとするが、武内を信頼する俊郎は刑事に「法的な根拠は?」と詰め寄り、武内は逃げてしまう。

一方その頃、勲は、事件現場である的場夫妻の家を訪れていた。そこで、どのようにして武内が自らの背中を金属バットで殴打したのか、考えていた。そこに雪見も合流し、杏子の妹の子が持っていたでんでん太鼓をヒントに、勲は答えに辿り着く。

金属バットのグリップにネクタイを結びつける。そのネクタイを握り、一本杉の柱を支柱にした上で金属バットをフォアハンドで振る。すると、ネクタイが柱に当たるところで、バットに円運動が起こり、自らの背中に当たる…そうすることで、背中を殴打する傷が偽装できるのだった。

俊郎、尋恵、まどかは、俊郎の「友人が持つ別荘」を訪れていた。その友人とは、武内だった。武内に疑いを持ち始めていた尋恵は、気が気ではなく、遺体を処分するのに十分な時間がなかったことから、武内は別荘のどこかに遺体を隠したはずではないか、と考える。

武内が、バームクーヘン作りやバーベキューの準備などで忙しい隙に、尋恵は別荘内で遺体を探す。車の位置や、踏み倒された草などを頼りに、尋恵は池本の遺体がハンモックに入れられ、木に吊るされていることを発見する。

尋恵が遺体を発見したことを知った武内は、彼女を別荘内に招き入れる。そんな中、もてなしているのにも関わらず、「帰る!」と騒ぐまどかにバームクーヘンを投げつけたことで、俊郎も武内の異常性に気づく。

俊郎は帰ろうとするが、そんな彼に武内は、火かき棒で頭部を殴りつける。俊郎は、武内を足止めし、クルマの鍵を投げて渡す。尋恵はまどかとともにクルマまで走るが、鍵を車内に落として発見できず、武内に追いつかれてしまう。

武内が窓を破ろうとしている中、勲、雪見、杏子たちが別荘にやってくる。勲は、妻たちが行こうとしていた「俊郎の友人の別荘」に向かおうとしていた。一方、遺体があるのではないかと、雪見、杏子たちは武内の別荘に向かったのだった。もちろん、それらは同一であり、2組はほぼ同時に別荘に着いた。そして、杏子を張っていた刑事も彼女らを追って別荘にやってくる。

武内が高枝切りバサミで襲ってきたが、雪見と尋恵はそのハサミを奪い、武内の脚を斬りつける。勲は、俊郎を探しにログハウス内にやってくる。俊郎の脈を確認する中、武内はログハウスのドアをロックしてしまう。

武内は、傷ついた脚を見せて「私も被害者なんです」と訴える一方、俊郎の首筋に火かき棒を打ち付ける。そんな武内を止め、火かき棒を取り上げる。勲は、武内が大理石の灰皿を手にしようとするのを威嚇し、勲は「この状況ならば正当防衛になるか」と一瞬、逡巡する。

刑事がドアを開けろ、と呼びかけ、勲は大理石の灰皿を取り上げた上で、ドアロックを解除しに行く。その隙に、武内は俊郎の頭に食器皿で打ち付けていた。そんな武内を見て激昂した勲は、「死ねぇ!」と叫びながら、大理石の灰皿で武内を何度も殴りつける。

エピローグ:判決

勲は、裁判官であったにも関わらず、今は逮捕・勾留された上で被告人として出廷していた。裁判官の判決文が読み上げられ、過剰防衛による傷害致死、大幅な情状酌量などが認められ、懲役 1年6ヶ月と言い渡された。

雪見、まどか、尋恵たちが傍聴していた。俊郎は一命を取り留めたが、めまいがして杖が必要であったり、ろれつが回らないなどの後遺症を残してしまった。だが、かけがえのない家族の命を「かろうじて失わずに済んだ」と思う。

尋恵の励ましを受け、勲は顔を上げて退廷する。

原作:

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